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素敵話:父の背中

2012年07月30日 09:39

素敵話:父の背中

[鳶職の父]

公用でM高校へ出かけたある日のことだった。
校長先生が私達を呼び止められて「時間がありましたら、お見せしたいものがありますので、校長室までお越し下さい」と言われ、校長室に案内された。
「実はある生徒の作文ですが」とA少年の経歴を話しながら作文を朗読された。
「僕の父親の職業鳶職である…」という書き出しから始まり、内容はおよそ次の様なことが書かれている。
「父親の休日は定まっていなかった。雨の日以外は日曜日も祭日もなく、お定まりの作業服に汚れた古いオンボロ車を運転して仕事に出かける。仕事が終わると頭から足の先まで泥や埃で真っ黒くなって帰り、庭先で衣服を脱ぎ捨てて褌1つになって風呂に飛び込むのが日課である。僕の友達がいても平気で、そんな父の姿が恥ずかしく、嫌いだった。小学校の頃近所の友達は日曜日になると決まって両親に連れられて買い物や食事に出かけて行き、僕は羨ましく思いながら見送ったものだ。(皆立派な父さんがいていいなぁ)と涙が流れたこともあった。たまの休みは朝から焼酎を飲みながらテレビの前に座っていた。母は『掃除の邪魔だからどいてよ』と掃除機で追っ払う。『そんな邪魔にすんなよ』父は逆らうでもなく焼酎瓶片手にウロウロしている。『濡れ落ち葉という言葉はあんたにピッタリね…この粗大ゴミ!』『成程俺にそっくりかハハハ…うまいことをいうなハハハ…』と父は受け流して怒ろうともせずゲラゲラ笑っている。
小学校の頃から小遣いをくれるのも母だったし、買い物も母が連れて行ってくれた。運動会も発表会も父が来たことなど1度もない。こんな父親などいてもいなくってもかまわないと思ったりした。ある日、名古屋へ遊びに出かけた。ふと気づくと高層ビル建築現場に『○○建設会社』と父親の会社の文字が目に入った。
僕は足を止めてしばらく眺めるともなく見ていて驚いた。8階の最高層に近い辺りに命綱を体に縛り、懸命に働いている父親の姿を発見したのです。僕は金縛りにあったようにその場に立ちすくんでしまった。(あの飲み助の親父があんな危険な所で仕事をしている。一つ違えば下は地獄だ。女房や子供に粗大ゴミとか濡れ落ち葉と馬鹿にされながらも怒りもせず、ヘラヘラ笑って返すあの父が…)僕は体が震えてきた。8階で働いている米粒程にしか見えない父親の姿が仁王さんのような巨像に見えてきた」校長は少し涙声で読み続けた。
「僕は何という不潔な心で自分の父を見ていたのか。母は父の仕事振りを見たことがあるのだろうか。1度でも見ていれば、濡れ落ち葉なんて言えるはずがない。僕は不覚にも涙がポロポロ頬を伝わった。体を張って命をかけて僕らを育ててくれる。何一つ文句らしいことも言わず焼酎だけを楽しみに黙々働く父の偉大さ。どこの誰よりも男らしい父の子供であったことを誇りに思う」
そして彼は最後にこう書き結んでいる。
一生懸命勉強して一流の学校に入学し、一流の企業に就職して日曜祭日には女房子供を連れて一流レストランで食事をするのが夢だったが、今日限りこんな夢は捨てる。これからは親父のように汗と泥にまみれて自分の腕で自分の体でぶつかって行ける、そして黙して語らぬ父親の生き様こそ本当の男の生き方であり、僕も親父の跡を継ぐんだ」と。
読み終わった校長は「この学校にこんな素晴らしい生徒がいたことをとても嬉しく思います。こういう考え方を自分で判断することが教育根本だと思います。そして子の親としてつくづく考えさせられました」としみじみ言った。
差し出されたお茶はとっくに冷えていたがとっても温かくおいしかった。

[心に残るとっておきの話]第5集
潮文社より

このウラログへのコメント

  • なな♪ 2012年07月30日 14:16

    はらだAさん:コメントすごくうれしいですいい話を見つけて書いていくことで私も元気貰ってる感じだからやめられない

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