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ネットの素敵話:10分間のカセットテープ

2012年07月22日 01:41

ネットの素敵話:10分間のカセットテープ

仲の良い友人に[結婚式お願いね]と声をかけられるのはプランナー冥利に尽きる出来事の1つです。
「彼と結婚式することになったの。それで貴女にプランナーをお願いしたいのだけど相談に乗ってくれる?」
そう言って電話をかけてきたのは中学高校と同じ女子校で机を並べていた大親友
高校卒業後は別々の学校へ進んだものの常に連絡を取り合っており、社会人になった現在も1ヵ月に1度必ず会っている程です。
住んでいる所も近かったので学生の頃は互いの家を行き来することも多く、彼女のご両親は私のことを彼女と同じ位可愛がって下さいました。
そんな彼女からの申し出は親友としてとても嬉しく幸せなことでした。
しかも自分がなりたくてなった仕事を大事な友達の為に活かすことが出来るなんて絶対に素敵な式にしようと心に誓いました。
ただその一方で彼女の声がどこか沈んでいることにも気づいたのです。
「有難う、任せて。できるだけのことをしっかりさせて貰うから。それにしても一寸急だね」
彼女結婚相手は付き合って半年ちょっとの男性でした。
これまで彼女恋愛をずっと見てきた私としても確かに今の彼と幸せになってくれたらいいなとは思っていましたが、それでも手放しで喜ぶことの出来ない、何か引っかかるものがあったのです。
「うん、それがね…」
彼女の声が詰まりました。あまりに深刻そうな声に思い当たる事がありました。
「お父さんなこと?」大親友のお父様は2年期前に大腸癌を患い、手術したものの転移が進んでおり、もう長くないのではと言われていました。
「一刻も早く式を挙げたいの。もう1ヶ月もたないだろうと言われてしまって」
「1ヶ月…」
私は言葉を失いました。
慌てて式場を押さえるにしても病身のお父様は参列できるだろうか
何より、きちんと成功させることができるのだろうか?
一瞬に様々な[?]が頭を巡りました。
私は自分に[落ち着いて]と言い聞かせ1回深呼吸し、言葉を続けました。
「出来ないことはないと思うけどお父様はどの位の時間外にいて大丈夫?それに他の参列して貰う方達はどうする?お招きするのは間に合うかしら?」
「意識ははっきりしてるんだけどずっとベッドにいるわ。ベッドごと運ぶことはできないかしら?ねぇ、どう?どうしたら参列して貰える?」
最後の方は嗚咽で聞き取れませんでした。
混乱している彼女の話だけでは状況判断ができないため兎に角お父様の入院されてる病院に伺うことを約束しました。
電話を切り、ふと気づきと私の目からも涙が溢れていました。
新宿にあるその大きな病院を訪ねたのは数日後の夕方でした。
彼女のお父様は点滴をした状態でベッドにいるわ横になっていました。
以前お会いした時よりやせ細ってはいらっしゃいましたが、意識ははっきりされていて、私が伺うと「おお」と半身を起こそうとされました。
「そのままになさって下さい、お加減は如何ですか」
「来てくれて有難う、丁度よかった。預かってほしい物があるんですよ。身内には言えないからいつか貴女に預ける機会がないものかとずっと思っていましたが。そこの戸棚の引き出しの1番奥にある封筒を取って貰えませんか」
病室に備え付けの小さな戸棚の引き出しを開けると小さな封筒が出てきました。中にはまだ赤ちゃんだった親友を抱いているお父様の写真と10分のカセットテープが入っていました。「あの子が結婚する時に渡してやろうと思っていた物なんです」
「おじさん…」
私は胸がいっぱいになって涙が出そうになるのを必死で抑えながら「おじさん、来月…綾香は来月結婚式を挙げるんです。会場も押さえたんですよ。だからぜひ参列して下さいね」と伝えたのですが、お父様は小さく首を横に振られました。
「こうしているとね、自分の寿命がわかるんです。来月は多分無理でしょう。焦らず盛大ないい結婚式を挙げてやって下さいね。その封筒もお願いしますよ」
「……」
強い光をたたえた目で見つめられながら1つ1つの言葉をゆっくりお話されるお父様に、これ以上何も言うことはできませんでした。
[とりあえず]ということで封筒をお預かりし、帰途に就くのが精一杯だったのです。
お父様の前ではどうには涙をこらえることができたものの、帰りのバスの中ではハンカチを顔から離すことが出来ませんでした。
家に帰り、預かったテープを再生してみようかと思いましたが、怖くてどうしてもできず、そのまま机の奥にしまいました。
その1週間後お父様は容態が急変しお亡くなりになりました。
親友結婚式まで後2週間を残すばかりでした。
親友の落ち込みようは大変なものでした。
結婚式は勿論延期になり、彼氏はずっと彼女の傍で励まし続けていました。
お父様の死から丁度2年後、彼女ジューンブライドになりました。
参列者は両家あわせて80人。
盛大なパーティーです。私もプランナーとしてずっと一緒に準備をしてきました。
式を終え、披露宴が始まりました。
花嫁が中座、お色直しでの入場の後、私は2年間ずっと内緒にしてきたあのテープをかけることにしました。
結局この日まで中身を聞くことはできなかったのですが…。
ドキドキしながらテープの再生ボタンを押すとお父様の元気な声が流れてきました。
「よっ、綾香元気か?大きくなったなぁ。花嫁姿を見られなくて残念だけど、さぞかし綺麗なんだろうなぁ。お前は小さい頃風邪ばっかりひいて体が弱かった。その割に勝気で悪戯をよく仕掛けてきたよな。覚えてるか?夏休みに父さんの田舎に連れて行った時、外から鍵がかかるトイレに父さんが入ったら、お前が鍵を閉めてしまった事。全然お前が開けてくれないから『助けてくれ~』と叫んだんだけど、あれは恥ずかしかったなー」
場内は大爆笑親友も初めこそ驚いていましたが、お父様のトークに涙を流しながら笑っています。
ユーモアがあり、いつも笑いを忘れないお父様らしいなと私は嬉しくなりました。
「そして−綾香を貰ってくれた新郎へ…娘は大人になっても悪戯を仕掛けてくるかも知れませんので注意して下さいね。もしも綾香がぷーっと膨れ面をしたら甘い物を食べさせると機嫌が直る筈です。それから彼女は一見気が強そうだけど根は甘えん坊でいたって優しい子です。どうぞ末永く大事にしてやって下さい」
親友ドレスを着た肩が大きく震えていました。
新郎も真っ赤な目で頷きながら聞いています。
少し間を置いた後、お父様は最後の言葉をおっしゃいました。
「おめでとう、幸せになれよ」
その言葉を聞いたそこにいる誰もが涙を止めることが出来ませんでした。

このウラログへのコメント

  • COSMICLOVE 2012年07月22日 02:04

    爺もテープ残しといた方がエエかな・・・
    て、もう遅いわ<(_ _)>

  • なな♪ 2012年07月22日 02:06

    COSMICLOVEさん:遅いことはないかもしれませんよ

  • なな♪ 2012年07月22日 22:48

    やんばるさん:素敵なお父さんですよね

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