中日新聞より。いい話

『亡き祖父と乾杯』


名古屋市守山区の山本さん（３１）は昨年の６月に結婚式を挙げた。その披露宴での出来事。
山本さんの父方のお婆さんは、７年前に亡くなったお爺さんの遺影を写真立てに入れ、自分のテーブルの上に置いていた。
お色直しの後、酒樽の鏡開きを行った際のことだ。参列者に酒樽が振る舞われると、お婆さんがグラスを遺影に向かって傾けて乾杯のポーズを取った。お爺さんは日本酒が好きだったという。
その様子に気付いた結婚式場のスタッフがサッと近づいて来て、お爺さんの遺影の前に、もう一つグラスを置いてお酒を注いでくれた。予期せぬことだったので、お婆さんはたいへん感激。そして、お爺さんのグラスにチンッと乾杯した。
山本さんは二人姉妹の姉。山本さんのお父さんには姉妹が二人いるが共に嫁いでいる。よって、このままだと山本家を誰も継がないことになるところだった。
ところが、山本さんのご主人は男四人兄弟の次男ということもあり「僕が養子に入るよ」と言ってくれた。そのため、山本姓を残すことができたのだという。
「そのこともうれしくて、祖母は結婚式を心待ちにしていてくれました。きっと亡くなった祖父に『山本がすてきな旦那さんを迎えてくれたよ』と報告しながら、乾杯したのでしょう」と山本さん。
さらに「スタッフの方の気遣いのおかげで、祖母に喜んでもらえました。私も接客業の仕事をしているので、お客さまには求められた以上のことを尽くさなければと勉強にもなりました。そして、お互いを気遣い思いやれる夫婦になりたいです」話す。

《中日新聞掲載　2016年2月28日(日曜日)》