ほんわか話:言葉って凄いね

僕の親戚はお蕎麦屋さんをしている。
僕は日曜日や祝日に手伝いに行くことがあるが、そんな中、1本の電話があった。
それは出前の電話で[お蕎麦を1つだけ持って来てほしい]という内容であった。
その人の家が近いということで僕が出前を持っていくことになった。
1番忙しい時間だったので、電話があってから1時間位たってしまっていたので、持っていった時に怒られると思った。
その人の家まで急いで走っていった。
家につきチャイムを鳴らし元気よく[お待ちどうさまです]と大声で言うと、60歳位の女の人が出てきた。
その女の人は怒るどころか、出てくるなり頭を深々と下げ[こんな忙しい時に1個だけ持ってきて貰って御免なさいね。大変だったでしょ]と言った。
驚いた。
言葉を失って立ちつくしていると[お幾らですか?]尋ねた。
僕は慌ててお金を貰い、出前の品を渡した。
そして、さっきの言葉のお返しの様に[有難うございました]と頭を下げた。
今まで僕は何回も出前に行っている。
その人たちも[有難う]や[頑張れよ]等と声をかけてくれるが、あれ程丁寧に言ってくれる人は初めてだった。
もし、逆の立場でもあれ程丁寧には言わないと思う。
それは心の中で[出前を持って来てくれる事が当たり前][有難う]と言う事が恥ずかしいと思っているからである。
お店に戻り[あのお客様の出前は僕がいつも行くからね]と働いている皆に言った。
皆は不思議そうに[何で?]と聞いた。
そして、今あった事を話すと[いい経験したね]と言ってくれた。
その後、僕にこう話した。
[やっぱり人は言葉が大切だよね。言葉で言わなきゃ伝わらないよね]と。
その通りだと思った。
夜の仕事も終わり、家に帰った。
そして、今度は家族の皆に今日の事を話した。
すると親が[言葉は一言で人を喜ばせ、一言で悲しくさせる。言葉って凄いね]と言った。

山口誠(東京都品川区15歳)
[NTTふれあいトーク大賞優秀作品集]NTT東日本


たった一言で悲しくもなるし嬉しくもなる。それが言葉の力。心の中でどんなに思っていても、言葉に出さなければ相手には伝わらない。[ざる蕎麦]を食べたいと心で深く念じていても[たぬき蕎麦]と言えば[たぬき蕎麦]が出てくる。[有難う][御免なさい][感謝します][嬉しい][楽しい][幸せ]
言葉一つで世界が変わる。