ネットの心温まる話:白髪の紳士

数日前、いとこの結婚式に参席するため地下鉄に乗りました。
駅を幾つか過ぎた時、杖をつきながら腰の曲がったお婆さんが、ゆっくりと電車に向かってこられました。一歩一歩、危なかしそうに歩いてこられるお婆さんは、人に酔ったのか何度もよろけていました。そして、横を大柄の男性が慌てて駆け込み、その弾みでお婆さんは転んでしましました。その男性はおばあさんをじろりと一度だけ見て、他の車両に移って行きました。
おばあさんは扉が閉まる直前に何とか電車に乗りこみました。
床に座り込んだお婆さんを全員が労しい眼差しで見るだけで、誰一人としてお婆さんを起こしてあげる人はいませんでした。勿論、私もそのうちの一人でした。お婆さんは起き上がろうとして転んでしまいました。その時お婆さんの木の杖も折れてしまい、お婆さんの目には涙があふれていました。
その時、うとうとと寝ていたおじいさんが周囲の音に目を覚まし、周囲を見渡しました。
おじいさんは床に転んでいるお婆さんを発見すると、すぐに席を立たれました。
皆が息を殺して見守り、誰もおじいさんが座っていた席に座ろうとしませんでした。おじいさんはハンカチを取り出し、お婆さんの目元をゆっくりと拭き、引き起して席に座らせました。
お婆さんはおじいさんの手を握り締めて<ありがたいね。本当にありがたいね>と繰り返していました。そして、おじいさんはお婆さんが電車から降りる時、自分の茶色の杖まで差し出していました。
その日、私はいとこの結婚式が進行している間もおじいさんのことが頭から離れませんでした。たとえ、古風で高価な服を着ていなくても、おじいさんの心は誰よりも格好よく、確かに紳士でした。

…誰も助けてくれない中でもこのおじいさんの様な紳士がいたのはおばあさんにとっても救いだった筈。…