親指問答

Yahooの知恵袋に
会社の社長が親指を誤って
切断してしまい、それが会社の冷蔵庫に
保管されたままになっているのでどうすればいいのかという質問があった。

普通は病院ですぐさま縫合してもらうとの
回答があった。そしてそのお礼のコメントに
その後捨てられました。と何事もなかったかのように書き込まれていたのである。

質問者は幾分冷静だった。
普通の人間ならまず病院を進める。
そのことをわざわざ知恵袋に質問し
回答をもらってお礼に捨てられたともう
人ごとのように答えるそのシュールさに
私は面白みを感じたのだ。

私は思うのだ、彼は冷蔵庫に保管された
社長の指のことが頭から離れず
夜の寝る前にも忘れられなかったのだ。
社長が冷静すぎるのがおかしいくらいだ。
普通は社長の方がこの質問を書き込むにふさわしい。

会社に社長の部位がある中で
社員たちは何事もないように業務に励む。
お得意様に笑顔で応対する。
事務の女の子はお茶を組む。
社長は何もなかったように鎮座している。
よく考えよう。その中で彼は平然として
いられようか。もしかすると途轍もない
秘密を知ってしまい毎日その秘密を
守るために冷や汗をかいて笑っていたはずだ。

まるで口内炎やめばちこのように
気にかけないではいられないのだ指を。
社長、一体何を企んでいるんだ
俺はどうすればいいんだ
そして質問者は質問したのだ。
質問者は社長を心配したからではない
自分を救って欲しかったのだ。

しかし指は捨てられた。
彼の日常から消えた。
彼は安堵したにちがいない。
それがこの一連の問答に隠されているのだ。

シュールさを汲み取れない人には
この手の質問を間に受けて
うわ、痛そう。で終了であるが。
なんでそーなるんだよという斜め目線を
楽しめる人はこの話が面白いネタに感じるのである。

その想像の範囲が常識内で留まらない人は
筒井康隆みたいなSF小説の才能があると思われる。あ、痛そう。そう思う人は石原慎太郎みたいな社会派であろう。
私は明らかに前者であるが、私の母親はこの想像力を評価してくれない。変人異星人扱いである。