爆乳

豊崎由美社長が岸本佐知子のエッセイ
なんらかの事情をラジオで紹介しており
私は思わず興味を持った。

岸本佐知子さんは翻訳家で
普通は身なりからして入国拒否されそうな
奇想天外な海外小説たちを日本へ
入国させているいわば理解ある入国管理員なのだ。

彼女は宇宙人である
だから宇宙人を受け入れられる。
きっと彼女は目の前に手が八本ある
火星人が現れても、一つ目の妖怪が現れても
笑って迎え入れるタイプだろう。
それは彼女の想定の範囲のことだからである

しかし、人間が住むこの星で
この類の人間は非常に生きづらい。
宇宙規模でみると間違って書類を消去
することも、上司の顔の黒子を見て笑うことも
賛辞されることかもしれない。
重要情報が社外に漏れるのを阻止した
黒子をチャームポイントだと気づかせてくれた
しかも何の悪気も見栄もなく無意識でやってのける。地球ではこの気の利いた所為を
ミスとしてカウントする。私たちはこの星では
やはり生きにくい。何をしても評価されにくいのだ。

私も一種の疎外感をこの星に紛れ住む
気の利かない星の生き残りとして全身に感じて生きていたのだ。たぶん同胞たちも同じように
不器用をさらりとやってのけるその器用さに
自己嫌悪を覚え、この星の生活に馴染めず
孤独に生きているものたちがいると思うのだ。

そこに岸本が現れた。岸本は一見地球人が
一目見てその異質さに笑い転げるような内容に
同胞にだけ読み解ける暗号を隠している。
私には見える。文と文の間に我々に向けた
エールともとれる激励の念が。

きっとこの星で馴染めず今にも首を
くくろうと考えている同胞たちに
希望の光を与えたにちがいない。
私には見える、形さえ知らないわが故郷の
気が利かない星の姿が。
ありがとう、ありがとう岸本。
あなたはきっと多くの同胞を救った
救世主として我が星で永遠に語り継がれていくでしょう。

爆乳は私たちの星では触ると爆発する
女性の乳房に似た兵器です。