誰だ？ お前！？

日馬富士―――
とうとう辞めたかぁ

まだ問題山積みだが
引退するとしたなら
番付編成会議の前の
このタイミングだわなぁ











“人違い”したこと、されたことはないけど、似たよーなことはある。




「おぅーっ！ 久しぶり♪」

若い舎弟を従えた小柄で小肥りの男に声を掛けられたのは、白昼の上野広小路の路上だった。



(……？)

見た顔のよーな気もするが、さて、誰だっけ？



「何だぁ?! 覚えてないのかよ?」



(うむ。覚えてない。誰だっけ？)



「俺だよ、俺っ！
お前、Mちゃんと居たろ？
Nさんの処で……」



出てくる固有名詞は、知らないと口には出来ないもので、彼が私を知っているのは確実だった。

私は目の前の彼を覚えていない。

たぶん、口をきいたことすらない。



問題なのは彼が云う《Nさん》が、これが中々のクセ者で私とは堅気の付き合いだったが、Nさんご本人はそーでもない。

私が、Nさんと親しかったのは確かだし、Nさんと一緒の処、彼が見て、私のこと《舎弟》と思うのなら、それは充分にあり得ることだが、
オイ
俺ら、アンタ覚えてないんだってば。



(ひぃ～～～ん)

目の前の小肥りの旦那、如何にも“そちら”のオーラ、プンプン醸してる。

ご機嫌を損ねて揉めてる場合じゃない、仕事の途中の俺らです (^^;



「はぁー」

「まぁー」

「えぇー」



曖昧な返事をする私に、ようやく

「……？ 何だ、お前！？
本当に俺のこと、わかんねぇの？」



(ご名答♪)

ここで俺ら、おもむろに微笑んで、サッと手を上げ廻れ右!



何事もなかったよーに立ち去ったのでありました。