6～7秒くらい

私の部屋は、色々な思い出の写真が飾ってあります


初めてデートしたときの写真や、作った料理の写真など

これいいなと思ったものを、無造作に飾ってあります



ある1枚の写真は、施設の子どもたちと一緒に写る彼の写真

グローブやバットを持ち、笑顔輝くみんなの写真


この写真にも思い出があります






当時プロ野球選手だったＡ選手が来てくださることになり

子どもたちがすごく楽しみにしていたのを、覚えています



日曜日の昼、もう少しでＡ選手が来るということで

野球に興味のない子もワクワクしながら待っていた矢先、1本の電話が鳴りました


「Ａ選手は体調不良のため、今日の慰問は中止にしてほしい。
なお、再慰問の予定は未定です。」


その連絡を受けＡ選手が来れなくなったのを知った子どもたちが、すごくガッカリしていたのを
今でも思い出します



けっこう児童養護施設には、芸能人の方やプロスポーツ選手が慰問という形で
来てくださることがあります



でも、テレビカメラや新聞・雑誌の取材を兼ねたものなら来てくれますが

そうでないものだと、キャンセルされることも珍しくなく

ましてや、私が協力している施設は資金にも余裕がない茨城の片田舎の施設なので

著名人が来てくださったことはほぼありません





施設の先生方は何度も似たようなことを経験しているので、落胆は小さかったですが

初めて有名な人が来てくれると思っていた子どもたちはその日ずっとガッカリしっぱなし


夕食まで私も彼と一緒に施設にいましたが、

話しかけてもあまり元気がないし、どこか寂しそう



「少しの時間くらい、来てくれても良かったのに」
なんて一人怒っていました




その出来事から3週間後

彼の会社が出場する野球大会（とは言っても、草野球レベルの懇親会みたいなもの）
に彼が施設の子どもたちを招待し、大きなバスを彼のポケットマネーでチャーターして
みんなで応援に行くことになりました


でも、前述の通り野球に興味のない子もいて

あまりみんな試合に熱中していない感じ



そんな中、彼が2度目のバッターボックスに立ったとき
大きな声で観客席の子どもたちに叫びました




彼「お～い、今からホームラン打つからな待ってろよ～」


これには相手チームの人や応援の方も爆笑

後で知ったことですが
草野球レベルとは言え、相手チームは元実業団出身やら甲子園出場経験者やら
なかなかの選手がそろっていたようで
そんな中、私の彼は野球経験歴は少年野球程度
そりゃ、相手からしたら「何を言ってるんだコイツは」って感じでしょうね




1球目は見逃しボール

2球目は1バウンドでまたボール

3級目にギリギリの位置でストライク

そして、4級目

















（カーン）
の音のあと、6～7秒くらいでしょうか








私たちが座ってくつろいでいる横30メートルくらいに勢い良くボールが飛び込み


















見事ホームラン























「すげえマジでホームランだ」
とはしゃぐ子もいれば、
「何？どうしたの？？」
と、野球をよく知らない子も騒ぎ出し
相手チームの応援の方々からは
「良かったね、あのお兄ちゃんの言ったとおりホームランだよ」
と声をかけてもらったり
プロ選手ほどではありませんが、この日だけは彼は球場のヒーロー


試合の後でも、知らない方から声をかけられたり
子どもたちにとっても、目の前にいる野球のヒーロー


試合終了後に私たちと合流した彼には、子どもたちが群がり

出店に焼きそばを買いに行っても
焼きそば屋のおじさん「おっさっきのホームラン兄ちゃんじゃんか。
すげえなぁ、言ったとおりホームラン打ったもんな。
焼きそば35個？じゃあ20個は俺からのサービスだ。坊主ら、兄ちゃんに打ってもらってよかったな」
と焼きそばをサービスしてもらったり

その焼きそばを抱えてみんなで戻っているときは
他のチームの応援に来ていた方々に写真をせがまれたりと
まるでプロ野球選手状態




この人は、諦めたりしょうがないって思ったりすることを知らないんだな

いつでも挑戦して、踏破してみせて、それをちゃんと人に見せて

諦めないことの大切さを教えてるんだろうな






こんな彼だから、6年経った今も一番愛しているし

こんな彼だから、亡くなってもずっと思い続けているし

こんな彼だから、惹かれたんだなって感じました




あの時の笑顔が、そのまま詰まった思い出の写真


私がおばあちゃんになっても、ずっと飾っておくことでしょう



笑顔と、人々の思いを共に




掲載元
http://www.recordchina.co.jp/p20829-1.html