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いい話…母の愛。

2011年05月23日 01:01

……1人の時に読んだ方がいいかも……


こころチキンスープより

勇気がどんな顔をしているか、私は知っている。
これは六年前に飛行機の中で起こった事件だが、近ごろになってやっと、涙ぐまずにその話ができるようになった。
その金曜日の朝、われわれを乗せた飛行機オーランド空港を飛び立ったとき、機内はよく喋る、エネルギッシュな乗客でいっぱいだった。
見回すと、ブランドもののスーツを着たビジネスマン、いかにも重役らしいヘアスタイルの男、革製のアタッシュケースをもった男など、飛行機に乗るのは日常茶飯事といった人たちばかりだった。
私は軽い読み物を手に、短い空の旅を楽しもうと、座席でくつろいだ。
離陸するなり異常が起きた。
飛行機は激しく上下に動き、左右にがくんがくんと揺れた。
私を含む経験豊かな旅行者は、わけ知り顔でにっこりと周囲を見回した。
こんな小さなトラブルや不調は、まえにも経験している。
「しょっちゅう飛行機に乗っていれば、こんなことはよくあるさ」
だが、そんな態度は長続きしなかった。
機体が浮上してから数分後に、今度はぐらぐらと落ち始め、翼の一つが下に折れ曲がった。
やがて機体は高度をあげたが、事態はよくならなかった。
パイロットが重大な発表をした。
「この飛行機は困難な状況に直面しています。現在のところ、機首下部の前輪が損失したもようです。油圧機器も作動しなくなりました。これよりオーランド空港に引き返します。油圧機器が使えないため、機体の着陸ギアがロックできるかどうかわかりません。そのため、ただいまより本機の客室乗務員が着陸の準備にかかります。さらに、窓から外をご覧になるとお気づきと思いますが、現在、機体から燃料を放出しております。着陸にそなえて燃料はできるだけ少なくしておかねばならないからです」
要するに、この飛行機は墜落するのだ。
こんな戦探する光景はいまだかつて目にしたことはない。
燃料が、それも何百ガロンもの燃料が、飛行機の窓の外を帯のように流れ落ちていく。
乗務員たちは乗客を座席に座らせ、すでに錯乱状態になっている人たちをなだめていた。
いっしょに乗った同僚たちの顔を見て、その顔のあまりの激変ぶりに息をのんだ。
みんな恐怖に脅えている。
いちばん自制心のありそうな連中さえ、顔がこわばり真っ青になっていた。
いや、実際には顔色は土気色に変わり、まるで別人のような形相だった。
まわりを見回すと、みんな泣いていた。大勢の人が声をあげて泣き、悲鳴をあげていた。
なんとか取り乱すまいとして、ひじ掛けを握りしめ、歯をくいしぼっていた男も何人かはいたが、その顔は恐怖にひきつっていた。死に直面して恐怖を感じない人間はいないのだと、つくづく思った。
私は乗客の中に、平静に落ち着いている人がいないものかと探し始めた。
こういうときこそ、強い信念をもって勇気と平常心を示してくれる人はいないものか。
だが、そんな人はひとりもいなかった。
すると、私の左横、二列目のあたりから静かで穏やかな女性の声が聞こえた。
ごく普通の口調で話している。
震えてもいなければ、うわずってもいない。
緊張さえ感じられないきれいな声だ。
いったい、誰が話しているのだろう。
こんな状況で落ち着きを失わないとは。
ようやく、その声の主が目に入った。
こんな修羅場で、ひとりの母親がひたすら子どもに話しかけていた。
とりたてて目立つタイプではなく、30代半ばと思われる女性だった。
彼女は4歳くらいの娘の顔を見つめていた。
娘は母親が重大なことを話しているのを感じて、懸命に聞いていた。
母親の真剣なまなざしに、娘はまわりの働突や不安のざわめきなど、耳に入らないようだった。
ふと、別の少女のことが脳裏をかすめた。
その幼い少女はつい最近恐ろしい飛行機事故にあったが、幸運にも生き残った。
母親は自分の身体で少女を覆ってシートベルトで束ねたため、娘は助かったものの母親は亡くなったという。
こうした大事故の生存者は、罪悪感虚無感に襲われることが多いらしく、新聞によると、その少女もやはり何週間も精神科で治療を受けたそうだ。
そして医者は繰り返し、繰り返し、「お母さんが亡くなったのは、あなたのせいではありませんよ」と少女に言い聞かせたという。この子も、そんなことにならなければいいがと思った。
私は首を伸ばして、その母親が娘に何を言っているのか聞き取ろうとした。
どうしても聞きたかった。
聞かずにはいられなかった。
それでも聞こえないのでまえかがみになった。
ようやく、その自信に満ちた柔らかな声を聞くことができた。
繰り返し、母親は言っていた。
ママはあなたを愛しているのよ。あなたはママのいちばんたいせつな宝物なの。わかるわね?」
「ええ、ママ」と幼い少女は答えた。
「だからよく覚えておいてね。これからどんなことがあっても、ママはあなたをずっと愛しているわ。あなたは、とってもいい子。でも、あなたが何も悪いことをしていなくても、事故にあうことがあるの。そうなっても、あなたはやっぱりとってもいい子よ。ママはずっとあなたを愛していまずからね」
そう言うと、母親は娘の身体の上に自分の身体を重ねるようにしてシートベルトを締め、墜落の瞬間にそなえた。
どういう運命のいたずらか、着陸はうまくいった。
当然起きると思われていた事故も起きなかった。
あっという聞のできごとだった。
あの日、私が耳にした声は決して震えず、信念にみちていた。
肉体的にも感情的にも、奇跡的と思えるような沈着さを保っていた。
世間ずれした腕ききのビジネスマンの中で、声を震わせずに話せた者はひとりもいなかっ一方、あの母親は最大の勇気を発揮した。ひたすらわが子の無事を祈る母性愛は何にもまして強かった。
あの恐ろしいパニックの中で、彼女こそ本物のヒーローだった。
そしてあのわずか数分の間に、私は勇気の声を聞いたのだった。

ケーシー・ハウリー

このウラログへのコメント

  • なな♪ 2011年05月23日 23:45

    Mitsuruさん:どうかな?改めて時間あるとき聞いてみるのもいいかも

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