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蒼穹に涙する

2009年01月11日 10:11

蒼穹に涙する

寒空に陽の光が差し
その光を背に
鈍色の、綿雲が
翩翻と、気ままに
遠くはるかな青を
横切っていく

むごいほど晴れ渡る空に
同行者たちの、空疎やりとり
聞こえてきて
ボクはこころ、そこになく
空疎な受け答えを繰り返す

その空疎さのなかに、昨日の、バーカウンターでの落胆が
ぴったりと重なる

「○○さんが、辞める日・・・」

と、同僚が職場を去る日のことをキミは話し始め
ボクは期待半分、ひょっとすると、という懼れ半分で
相槌をうちながら、話を促す

「私の前に立って『みんなもっと、強い上司を求めているんだ』
なんて言うんです。
『そんなこと言ったって、もっと嫌われちゃったらどうするの』
って反論したんだけど、ずっと仲良かったし・・・」

やっぱり、キミはあの夜の会話を
覚えていなかった。
なんにも。

それは、ボクがとても苦手とする
愚痴めいた話に聞こえなくもなく、
けれどただひとつ、キミが真情を吐露したと思える話題で
ボクはそのことが、とても嬉しくて、
だからこそ、キミを支えたくなって、

「それは彼女が、キミを信頼しているからこそ、言えたんだと思う」

そんなことを口にすると
キミは虚を突かれたように、一瞬言葉を呑み込み
なるほど・・・なんて、ひとりごとのように
けれど、ほんの少しだけ、口許を緩め
ほっとしたように応えた。

余計なことばかり、一方的に喋った気のする、
その夜の会話のなかで、
たったひとつ、意味があったかもしれない瞬間だった

なぜなら、ボクその言葉だけが
キミのこころに、届いた、と思えたし、
つまらなくって、嫌でいやでたまらない
いつまでも終わらない日常茶飯の
ひととの軋轢や、
触れたくもない、ギスギスした言葉の海の中で、
ひょっとすると、ボクだけが差し伸べることのできた
癒しかもしれない、
そう思えたからだった。

なのに、届いていなかった。
なんにも。
ただのひとことも。

そうおもうと、ボクはとても悲しくなって、
どうしようか、と迷いつつ
キミの話が、ぜんぶ終わるのを待って
さらにその後、沈黙を措いて、
そして、温まりかけた白ワイン
口を湿らせてから、
おもむろに口を開いた

あの、さ、
ひとつ、聞いてもいいかな?
ええと、あの、ひょっとすると、なんだけどさ、
もしかして、その話、さ
初めてだって、思って話している?

キミは、大きな瞳を、さらにまんまるにして、

あ、

なんて、声をもらしてから
白く細い指で、ちょっぴりバカに見えなくもない、
半開きの口を、押さえた

それから、場をとりつくろうみたいに、
慌ててキミが喋ったことが
またボクを驚かせたんだけど・・・

キミはそこから
まるでテープレコーダーみたいに
記憶をずらずらと並べ始めた
まぁ、自分が話した、残りの事の次第を
つなげるだけだったら、
ボクもそんなに、驚くことはなかったんだけど、
キミはなんと、それだけぢゃなくて、
ボクがそれに対して、どう応えたか、
ボクがいったい、キミにどういう言葉を投げかけたのか、
一字一句、残らず、再現して見せたのだった

それは、言った当人である僕の記憶より
はるかにくっきりとした、
けれどまるで、脳みその足りない、オウムや九官鳥みたいに
こころのこもらない言葉だった。

言葉は、だから、届いていたのだ。
紛れもなく、キミの耳に。

けれど、そこから先、
キミのこころには、届いてはいなかったんだ。
言葉の切れ端さえ、これっぽっちも。

だからやっぱり、
言葉は届いてはいなかったんだ。

でもそんなこと、おかまいなしで、
キミはケチャケチャと、鈴みたいな笑い声を弾ませ
ボクもつられて、けらけら、と乾いた笑い声を上げる

だめだ、
もう、ボクは・・・

なにもかも、
思い通りにならない
と、
ふにゃふにゃと
くずおれるような、
ボロボロになった
こころを抱き締め
ボクは思い切り
涙する

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