シクラメン

シクラメンかよわいとおもっていた。
さくねんのくりすますにおうちへやってきた。
まっかなしくらめん。
みどりいろのはっぱをいっぱいひろげてた。
さむさにもまけないでくりすますのよるをいろどってくれた。
まいにちかたわらではなしかけた。
ようえんなえみをうかべてへやのくうきをえろすでみたした。
ぼくはかのじょのまえにひれふした。
そうするしかなかった。
かのじょはあしをぼくのあたまにのせてつぶやいた。
ふんおまえもそんなやつか。
どうせいまだけだろう。

となりのへやではえろどうががながれている。
あいかわらずいたぶられるおんな。
ひめいをうれしそうにかなでる。
こしをうかせてしろめをむいて。
どんなにいたぶられようがはずかしめられようがわたしのかちよね。
かのじょはぼくのあたまにあしをのせてつぶやく。
ふんどうせいまだけさ。

しくらめんはかよわいとおもっていた。
まっかなしくらめんがくりすますのよるをえんしゅつしてくれた。
かたわらではろうそくのほのおがゆれている。
らべんだあのかおりをあたりいちめんうめつくす。
いきづまるほどののうどがかさついたきせつをうるおしていく。
がんめんをねっとりとまつわりつくしろいくりいむ。
おくちをあけてなめつくすおんな。
かのじょはぼくのあたまにあしをのせてつぶやく。
ふんいまだけなんでしょう。

しくらめんがうちにきていっかげつがすぎた。
としもあらたまりしくらめんのまっかないろはますますさえわたる。
しんせんさがあたりをしはいする。
かたわらではおんながしきゅうのなかをさらしてる。
かのじょはぼくのあたまにあしをのせしょざいなげなことばをなげる。
ふんいまだけでしょう。

そとではゆきがしらぬげにふりしきる。
まっかなしくらめんはごきげんななめでたばこをふかす。
くんだあしをぶらぶらさせてちょうしをとっている。
ぼくはよこめでそばをとおりすぎる。
ちらっとみたがなにもいわずにはなしんぎんぐ。
ふんいまだけでしょう。

あたらしいきりばなをかってきた。
きらきらぐらすにとうめいなみずでみたしたがらすのこっぷ。
そっといける。
しくらめんはにごったこえでつぶやいた。
ふんいまだけでしょう。

ようえんとはなひらくしくらめん。
かみをふりみだしはだをさらしこしをくねらせしきゅうをさらけだす。
ふんいまだけでしょう。
うでがおれた。
ふんいまだけでしょう。
ちぶさがしぼむ。
ふんいまだけでしょう。
たれるしりにく。
ふんいまだけでしょう。
おれまがるくき。
たれさがるくちびる。
しるがたれる。
はだがくすむ。

いまとしをこしてやがてろくじゅうにち。
まっかだったはなびらもいろがぬけてしぼんでる。
はなびらのついたくきもしおれてたれさがる。
となりのへやではえろどうががさかる。
ぼくのそばにはしぼんだしくらめんがかみをかきあげながらいう。
ふんいまだけでしょう。

となりのへやではわかいむすめがまっさあじきのうねりにもだえる。
いくいくいくいくいくいくうううう。
しくらめんのみぎまゆがつりあがってつぶやく。
ふんいまだけでしょう。

かれてきたしくらめんのそばでおおきくひらかれたあかいにくつぼ。
ふんいまだけよ。

かれたはなびらとくきをとりさり。
ぐんにゃりとたれたくきをとりさり。
またまっかなはなびらをひらかせてあげよう。
ふん。

それまでしばらくおやすみなさいぼくのしくらめん。
そうそれじゃそれまでででで。

しくらめんはねむりにはいる。
そうそれじゃ。

あたりはしずまり。
せけんはとおざかり。
へやにはぼくとしずかにねむるしくらめん。
またあえるよ。
ふん。
ほんとだよ。
そう。
それじゃ。
わかったわ。

うん。

それじゃ。
うん。

わかった。
うん。

うん。
うん。