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さらさら  さらさら....

2009年07月07日 00:04

「平気! ほら!大丈夫だから もう行って?」

時折 楽になるのか 気丈にも微笑み 送り出そうとする妻と

「そうそう、私らがついてるから センセ!心配しないで。
生徒さんらが待ってるよ」

と 促してくれる 用務員夫妻
  彼らには 二年前の長男誕生のときにも 多大な恩を受けていた

 

{なんで よりによって この日に生まれ出ようとするのだ}


彼は 一人ごちた
臨月なのだから 順当な蹴り出しなのだが 
折りしも 今日は 彼の勤務地 松前高校運動会

30歳になったばかり
昨年から 担任を任された17・8才の彼の生徒からは
「兄ちゃん先生!」と呼ばれている彼
他の先生に
『示しがつかない!』
と しかめっ面をされつつも 
異様に仲の良い2-2は 彼の誇りだった
そのクラスを持ち上がり 教え子高校生活最後の運動会
悲願の優勝に向け 兄ちゃん先生も奮起してきた
なのに 当日の朝 妻の陣痛は始まった

「ほら! 遅れるでしょ?
 生まれたら 校長に連絡しとくから 行った 行った!
 センセ、大丈夫!」

ついには 用務員Iさんの体格のよい奥さんに 玄関まで押し出され
彼は 妻と長男の事を頼み 頭を下げ 借家を後にする

初産でもなし 
妻も落ち着いているように見える
更には 頼りになる夫妻が 面倒をみてくれる

なのに 彼が後ろ髪をひかれるのには 
最初の子供の死産の一件が強烈で
せめて 待合室にいてあげたい衝動にかられていたのだ

でも 確かに晴天の下 あがった狼煙に 
生徒の歓喜の声が聞こえるように想え 
妻の異変が始まるまでは お天道様に感謝したのだった
ここは割り切って 妻のためにも 優勝をして
二人目の子供の誕生と 重ねての祝いにしよう!

集合を早め 皆の応援練習に気合を入れよう!
と 号令をかけておいた自分が遅刻とは。。
彼はもう 家を振り向かず 
Iさんの奥さんが急いでこさえてくれたオムスビを抱え
カゴのない自転車を 漕いで学校へと向かった

  「先生 おはようございます!」

  「おはようございます!」

さまざまな方向から 自転車が集う

  「お~、おはよう。今日は頑張れよ!」

    はい!

      は~い!

学年も名前も うろ覚えだが 自校の生徒は 皆愛しい


運動会の開会が宣言された
晴れやかに輝く日 彼は体育教師として
念入りに 全生徒への注意事項と 準備体操を壇上で示した

「兄ちゃん!騎馬戦 行ってきます!応援 待ってるよ」

生徒39人の笑顔が弾ける
ここまで 総合二位
ムカデ競争は男子3位 女子2位と出遅れたものの
100M走は 一人ひとりが 1-3位に大概入り 点数を稼いだし 
玉いれ ボール送りなどのクラス一丸で行う競技は
「2組 すげ~」
と 他から はやされるくらいトップで折り返してきた
思い思いのご飯を食べて
いよいよ午後には 運動会の華 クラス対抗リレーを迎える

塩がピリっと効いた梅のおむすびを喰らいながら 空を眺めると
一人 苦しんでいるであろう妻の横顔が浮かぶ
あの日も 長時間 頑張って 顔面が腫れ上がるくらい 気張って
産み落とした長男は 
へその緒が首に絡まった状態で生まれてきた

産後 すぐに夫婦で為したことは
この世で生を謳歌できなかった子の供養だけだった

   あんな悪夢が 二度も起こるものか!
彼は 悪いイメージを打破すべく 外の水道を勢いよく出し
汗まみれの頭髪に 浴びせた


「兄ちゃん先生!
 ひゃ~ ひゃっこく(冷たいの意)ない?」

振り向くと 保健委員の女子二人がケラケラ笑っている
美醜はない 
この年代の子は 男女とも 本当に美しい
胸を打つ想いを 
毎日 彼らと過ごせる至福を 天に感謝した

。。果たして リレーは素晴らしかった
女子は バトンミスで 一時3位まで転落したものの
アンカー バスケ部の子が見事な追い上げをみせ 僅差まで詰め 二位
男子は 第一走者から ゴールテープを切るまで 
ぶっちぎり 文句なしの首位

沸きに沸いた グラウンドを後にした
彼らを置き去りにする旨は 
先週から教鞭をとっていた教育実習生から説明してもらうこととし       彼は 自転車で病院へと急いだ
夕焼けが 赤く 自分の足を照らす

   無事、、なのだろうか

ワクワクする気もちと 些少の不安が入り混じる 甘酸っぱい息を弾ませ
足早に 院へと入った
すぐに 玄関で ナースに出会う

「あ、Sさん 奥さん 頑張ったわよ~ 
 2600g 母子とも健康!」

。。。安堵と じわりとした喜びが 彼を包み込む
   
    生まれたか。。。
    よかった。。。。

教えられた病室へ向かう
この病院は 新生児室は設けず 
母子同室で過ごすこととなるのは 長男のときで了承済み
こっちも優勝のビックニュースを持って ここへ来られた
彼にとって 忘れられない日

  と 
病室から Iさん夫妻が出てくるのがみえた
様子がおかしい 
奥さんは 下を向いたまま 後ずさりの格好である

「Iさん!奥さん!!」

二人が ハっとバネ仕掛けのような驚きようで 小さく揺れた

「センセ!」
と 呼びかけるIさんの声にかぶって 
中から 妻の明るいソプラノが聞こえてきた

「お父さん? 運動会終わったの?」

どちらにどう返答しよう、、と 彼は取り急ぎ 近づく
Iさんの奥さんは 俯いたまま 目を逸らしていた

先ずは 何故か戸口から無言で離れるI夫妻にお辞儀をして
病室へ入る

妻は窓側から 夫を誇らしげに眺めていた
その手前に 小さな命があった

 刹那 彼には Iさんらの複雑な表情の意図が伝わる
妻には 見えていない 
知られていない その小さな横顔を見つめた

娘だと 先ほどの助産師さんから 告げられていた
ドア側からみえる彼女の顔は 赤黒く 
ただれたような 皮膚に覆われていた
妻の笑顔からして 反面だけの不幸なのだろう
果たして 彼女は 何も気がついていないのだろう。。。

取り敢えず 妻に近づき 苦労を労った
妻は 
優勝を教えると 毎晩話題にしている彼の教え子のうち 
はっきり顔も性格も判る子供らの様子を 聞き返してきた
スヤスヤ 眠っている赤子の脇 彼女にも少し休むよう促し
彼もまた I夫妻同様 病室を出て 長いすに 腰掛ける

女の子なのに 可哀想に。。」
奥さんが 消え入るような声で呟くと 
Iさんが 頑丈な彼女の背中をバチっと叩き
「ばかけ!あんなん すぐ消える。
 先生 薄くなって目立たなくなるもんですよ、あんくらい」

そう磊落に 
でも 妻の耳を気にしてか 
心なしか 小声で語ってくれた

  そう
 成長したらお化粧もすれば わからなくなるし 
 全力であの子を守ればいいのだ

疲れたのか 退屈だったのか 
奥さんの膝でさっきから眠っている長男だって
妹をかばってくれるだろう
いまは まだ妻の体に障るから 言わずにおこう
とはいえ 向きを替えられたり 便所へ立ったとき 
いや 授乳をするに すぐさま 気がつくのだろう

明るく 元気な妻ではあるが できるだけ 悲しむときは遅い方がいい。。。
しばし 表面上 元気に過ごした大人たちにも 寡黙な刻が襲った



カツカツ
 カツカツ

規則正しい足音とともに 
死産だった際・二年前の長男のときも親身に携わってくれた
婦長さんが 肩を片方落とした 独特な歩き方で寄ってくる

「Sさん!あ~焼けましたね~。運動会でしたか~。
松校は進学校なのに 行事も盛んで楽しいですね!」

言い終えて 彼女は首を傾げた

「あれ~?何? お嬢様ご誕生なのに 
 お通夜のようなしけた顔して?どうしました?」

 白々しい。。。

彼にしては 珍しく 嫌な感情が生まれてきた
婦長が 赤子を見ない訳ないだろうに 
手放しで喜べる事情でもない事を知っての 慰めにもつかぬ 愚弁か?

そのとき 妻の声がした

看護婦さん この子のほっぺ。。。」

  !!!


   Iさんらと 顔を見合わせた

一面の痣というか 変色した肌を妻に知られてしまった。。。

「は~い。その事で来ましたよ~。入りますよ!」

こちらの動揺など 見向きもせず 婦長が 病室へと消える
その直後 赤ん坊のけたたましい 泣き声が響き渡る

「あ~ごめんね、、もうすぐキレイになるから、、嫌な臭いでちゅね~
ごめんね。Sさん 不手際で申し訳なかったですね~」

婦長の豪快なあやし声と 笑い声
妻の「いいえ~」という涼しい返事も聞こえる

恐る恐る 中を覗くと 彼女は 布のような物で 赤ん坊を軽く叩いている

「はい!終わりました。お母さん そろそろ初乳をやれるね」

ゆっくり起き上がって 窓からの夕陽を浴び 子供を抱き抱える妻は
神々しく映った

そうして 数十分 彼らを落ち込ませた 
哀れな皮膚は ただの真っ赤な子供の頬に戻っていた。。。

 夏の黄昏どきが魅せた悪戯?
 狐につままれたような刻
    いっときの哀しみと相反した安堵感

実は お産でバタついた部屋で 見習い助産師さんが 
産婦に使うアカチン消毒薬を 何故か赤ん坊につけてしまい 
普通では取れにくい旨を説明し
婦長を呼んで拭き取ってもらう算段を 妻は掌握していたのだった

  良かった
  器量以前に 肌を気にせずに生きてゆけるのは幸いだった。。。





昨日までの彼は 
女の子だったなら 家の裏を爽やかに彩る合歓の木を眺めながら
その風の音を受けて
「梢」と名づけようと 決めていた


    が 夕焼けに染まりながら 生まれた子

彼女は 
一連の騒動の果て いにしえからの詞なのに近代的にも響く
ひらがなの名前と化した




そうして 無事だった右頬の泣き笑い
そんな親心も知らず
毎日 野山を駆け巡る 頑是無いお転婆娘は ある冬 ストーブにぶつかって
階段跡のようなギザギザを 結局は右のほっぺに作りあげる始末
それこそ 成長とともに薄くなるだろうし 
年頃になれば化粧もするだろうという慰めをも裏切って 
高校の頃には 跡形もなく火傷は目立たなくなったのは善しとして

化粧知らず
いい年になっても 口紅以外は乳液も持たない
色気のない女へと 移っていったのだった。。。






こんなドタバタの果ての誕生話しは
当時の父の手記に 事細かく描かれていたので 
抜粋 アレンジしてみた。。。。

   それ以前に 耳にタコが数万匹住み着いた 
   我が家と松校OBだけに伝わる逸話






       ヤヨイらしいな~ 

       昔っから人騒がせな。。


とか 言わないの!

 ドジって アカチンをつけたんは 私ではないのですからね~





       笹の葉 サラサラ 軒端に揺れる・・・







        今日 7月7日は 
 


              私の誕生日なのです ^^;

このデジログへのコメント

  • 赤wine 2009年07月07日 01:49

    やっぱり 貴女だと思ったf^_^;

    HAPPY BIRTHDAY ( ^^)Y☆Y(^^ )

  • やじろべい 2009年07月07日 05:56

    お誕生日おめでとう(*^▽^)/★*☆♪さすがにハラハラしました。異様に仲良しなクラスってあるよねw

  • 鞍馬 由岐 2009年07月07日 06:23

    お誕生日おめでとうございます。
    出産はドラマですね。なんて素敵なご両親なのでしょう♪

  • ヤヨイ 2009年07月07日 08:20

    > nekoyanさん
    ありがとうございます

    先輩もまた 立派に宝物を守っている大きな父親さんなので
    この数分の泣き笑いの深さを理解してくれるのだと 想いました

  • ヤヨイ 2009年07月07日 08:23

    > 赤ワインさん

    ありがとうございます

    まだワインを飲める身体でないのが残念ですが
    記念日は大好き(^^♪

    もう最初から 私の事だってバレてたん?
    さすが往年のフレンドさん♪

  • ヤヨイ 2009年07月07日 08:25

    > やじろべいさん

    ありがとうございます
    ドタバタな人生を誕生から過ごしてきた私の七夕です♪
    今年も同級会があり遠く北海道まで父は行ってきたそうです
    兄ちゃんが爺ちゃんになっても(笑)

  • ヤヨイ 2009年07月07日 08:29

    > 鞍馬 由岐さん

    ありがとうございます

    何歳になっても私は記念日好き♪
    長男が無事生まれていれば 私という存在はなかった可能性も。。

    運命の分れ道は何処にでもあるのでしょうね

  • 奈津 2009年07月07日 16:56

    お誕生日おめでとうございます☆゜'・:*☆(〃'▽'〃)ノ♪

    またゆっくり♪

  • あすなろ 2009年07月07日 20:54

    お~~ おめでと~~!書き残しておくお父さんも凄いね。自分の話だったのか 今度は何の話かとわくわく。

  • ーミっキー 2009年07月07日 22:56

    まだ間に合ったね^^
    お誕生日おめでとう♪PAN!( ^-^)∠※.。・:*:・゜`☆、。

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:39

    > Shinさん
    ありがとうございます
    何故にアカチン。。?って いつもながら不思議なんですが
    当時ってそうだったのか 松前だけの流行だったのか(笑)
    怪我に病気 親の心配は愛でしょうね♪

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:41

    > 幟 梨緒さん
    ありがとうございます
    夢みる頃は過ぎて 蝋燭をケーキにたてるは嫌味か脅迫か(爆)
    そう もうお祝い騒ぎではなく しっとりと自分の日を親に周囲に
    陳謝するが年相ですね~

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:44

    > 奈津さん
    ありがとうございます
    都会は秒刻みの慌しさ。。。
    でも夜に少しだけ ベランダで夜空を
    見上げてました♪
    星・月 蟹座は天に愛された星座だから
    淋しいときは空へ☆彡

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:46

    > あすなろさん
    ありがとうございます。
    ご無沙汰しておいて いきなり書くが 自分の誕生話しとは
    厚顔ですね~(笑)
    でもデジで迎える初めての記念日だったので。
    父の手記とは当時の文集でした

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:47

    > ミっキーさん
    ありがとうございます
    遠くから 祝福嬉しいです(*^_^*)

    間に合ったという言葉も嬉しいですね。
    自分が勝手に告知?しただけなのに
    本当に ありがとう○o。.

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:50

    > ピロすけさん
    ありがとうございます
    また年を重ねてしまったけれど 何歳になっても
    自分の日は大事にしたい 何処か幼い私でした★

    本当に右頬に傷をつけるところに
    運命を感じました↓

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:51

    > ひこさん
    ありがとうございます。
    そう 私もゾロ目です。
    昨年は失礼しちゃったから
    今年は 誰より先に(は不遜ですね)貴方の日には
    おめでとう♪って お祝いしますよ~(*^_^*)

  • ヤヨイ 2009年07月10日 21:53

    > 小春さん
    ありがとうございます。
    おお!
    こ、これは小春さん特性のキャロットケーキではございませんか!
    健康志向が ここにきて急増しているヤヨイには 
    嬉しい限りです^^;

  • noa 2009年07月12日 23:58

    とってもとっても遅くなりましたがf^_^;
    ヾ^▽^HДРРЧ ВIЯтHDДЧ♪

  • ヤヨイ 2009年07月14日 22:54

    > noaさん

    ありがとうございます

    んふふ。。誕生から人騒がせだった私です
    遠距離恋愛を二度したときには 織姫の宿命やと 決め込んだ次第です~♪
    noaさんは何月生まれさん?

  • noa 2009年07月24日 18:43

    > ヤヨイさん
    ではでは ヤヨイ姫♪(-^艸^-)
    σ(n゚∀゚aは 9月ですよ。

  • ヤヨイ 2009年07月26日 21:25

    > noaさん
    お返事遅くなりました♪

    九月は乙女か気高い獅子か。。
    これからなのですね~
    愉しみな日は=^_^=

    綺麗なものに囲まれているので さぞかし祝いごとも眩しいことか♪

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