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半身の女・降臨

2008年09月19日 18:53

半身という言葉がある

これが正式な文献としてあるのかは知らない

かつて神がアダムを創ったという

そしてアダムからイブを作る

アダムという完全であった存在を

二つに分けることで完全さを失い

人は神の本意から外れ 失楽園を知る

そしてそれを業となし 人は不完全な存在として生まれ

生まれながらにして本能的に半身を捜す

そして数多くの半身を知りながらも

自らの半身に出会うことはない

たとえ出会ったとしても

必ずしもその半身とひとつになれるとは限らない




「やっがみく~ん」

明るい呼び声にわたしは振り返る

声の主は伊藤瑞樹だった

「なに?」

「最近どう?」

「特に何もないが」

「嘘だ~、なくないでしょ?」

「なにもないぞ」

「う~ん、しぶといっ」

かなり軽いノリの子だが

わたし個人は彼女が怖い

彼女のもつ別の顔

今、ここにいる脳天気彼女

彼女にはそれとは別な顔がある

それをわたしは垣間見た

そしてわたしの勘が彼女を恐れている

「なんでわかった?」

駆け引きや誤魔化しは抜き

彼女に対する対応で一番適切なのはそれだ

予測通りに彼女は変化する

脳天気な女から 別の女に

「別れたでしょ?」

「誰ととは聞くべきではないな」

「そうね、板垣さんではない...」

「どういう女と別れたと思う?」

「あなたにとって大事な人、

ある意味 板垣さんより大事な人」

「どうやったら それがわかるんだ?」

「なんとなくよ」

わたしは 瑞樹を眺める

瑞樹に関しては色々な噂がある

身体を売る女、男漁りをする女

脳天気で誰でもやらせる女、食事だけで一晩寝る女

ただ、どれも真実ではない

それはわかる、根拠はないがわかった

実際 誰でもやる女が 田村松山

受け流すわけがない

実際 二人とも瑞樹にアプローチはかけた

松山は手の平で遊ばれ 

田村笑顔も流されたらしい

二人の感想は 

『やがみ君を口説いてるみたいだった

つかみ所がないって言うか 雲のようで』

それも わたしが瑞樹を恐れる理由のひとつだった

色んなタイプに対応は可能なわたしが

もし 存在してたら とても苦手と思えるタイプ

自分と同じタイプ

ペテンも策略も全て封じられたら

わたしは 普通の少しえっちの上手い男と変わりない

虚をつく 包囲する ある意味小賢しい策略がわたしの武器

それの通じない相手ほどやりにくいものはない

「そろそろってことか?」

「わかってくれたら話が早いわ」

「確かに 違う形だが 穴は埋めてくれそうだ」

「わたしにしか出来ないと思うよ」

「確かに、あんたなら 出来る気はする」

髪を無造作に後ろに束ね一歩前に出る

「怖い女だな....」

「そんなことないわよ」

わたしは左手を肩の位置まで上げる

待ち構えるように瑞樹の頬がその高さにある

「なるほど、実はそういうことか」

「そうね、あなたもね」

平静を装いながら 実は二人とも鼓動は高鳴っていた

わたしは大きく息を吐く

キスにこんなに緊張するのは久々だ」

「わたしは初めてよ」

瑞樹を引き寄せ抱きしめる

「今 躊躇したでしょ?」

言われるとおりだった

いつもならキスをしている

引き寄せた時、確かに躊躇した

そして抱きしめることに逃げた

見抜かれてると思うが 見抜いてるのは同じ

「そう言いながら少しホッとしてるだろ?」

「わかりやすいけど嫌な関係ね」

「まったく、でも心地よい」

「そうね....じゃ、そろそろ...」

「そうだな」

瑞樹の唇に自分の唇を重ねる

いつものキスとは違う 

そのまま重ねたままで舌がゆっくりと

瑞樹の唇を割って入っていく

その舌をやわらかく迎え入れる舌がいる

目を閉じてキスを楽しむような瑞樹の顔

目が開く.... 何故かそう思った

そして目が合う

笑ったような目 少し潤みながら笑ったような女の目



やがみが二人いる

やがみの半身とも言われた女

そして 半身と思いながら ひとつ身にはならない

そんな予感を二人とも感じながら



瑞樹という女が わたしの空間に降り立った

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