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ドキュメンタリーフィクション・2

2016年01月08日 23:39

私たち夫婦は毎年、離婚届を2通用意する。

私が持つのは、旦那が記名・押印した離婚届
旦那が持つのは、私が記名・押印した離婚届
私たちは、いつでもその気になれば
空白になっている自身の署名欄を埋めて
すぐ独り身になれる。

結婚記念日の恒例行事になってしまったけれど
どうして、こんなことを始めたのか
経緯は、全く覚えていない。

もし、あなたに別の良い相手ができて
その人と一緒にいたいと、本気で考えるようになったら
嫌々、同じ空間で過ごさず、スッパリ別れて。

そんな雑談から、始まった気がする。
けれど、それは恐らく
旦那のほうが強く思っていることだ。

私は、旦那との夫婦関係を大切にしている反面
双方が持つ家の繋がりや強制が、煩わしく面倒だった。
家単位での繋がりに収まらないのは、私のほうだと
旦那は分かっていたのだと思う。

だからこそ、私に選択する自由を与えてくれたと
今では思うのだけれど、確かめたことはない。
答えが合っていても、嬉しくはないから。

私は、一度不倫をした。
大学時代から長く親交のある男性で、定期的に食事などはしていたが
彼が介護の都合で、九州へ生活基盤を移すということが決まり
「1度だけ、2人で旅行をしたい」と誘われた。

私に、少しでも恋愛感情があったら、戸惑って拒否したかもしれない。
幸か不幸か、私は、少しも特別な感情を抱いたことがなかったので
不倫の現実味や自覚もなく、彼と箱根へ行った。

そして実際に、彼とセックスをしても
小説にあるような、身を焦がす快感はなく
お餞別を体で渡したという程度の思いしか湧かなかった。

私は初めて、自分の倫理観が欠如していると思った。
不倫をしてなお、淡々としている自分がよく分からない。

きっと、私には、罰が当たるだろう。
私は眠りに落ちる前に、空想を巡らせた。
彼と旅館にいる間、大地震に襲われたら、どうなるのだろう。
電車が脱線して自分が死んだ時、隣にいたのが彼と知ったら
旦那や身内は、どんな反応をするのだろう。
天罰を考えながら、私は深く眠った。

重い朝ごはんを取り、チェックアウトを済ませた後
私たちは箱根登山鉄道に一緒に乗り、小田原へ向かった。
そして、彼は新幹線
私は東海道線へ。

「それじゃ」

振り返って名残を惜しむ気持ちはなかった。
彼も、見送るような人ではないので
きっと、そのまま真っすぐ改札へ向かっただろう。
私は用事を済ませたような、軽い疲れを覚えたが
彼のほうがどんな気持ちだったのか、聞く機会は今もない。

結局、電車は事故にも遭わず、天変地異も起きなかった。
私は自宅の最寄り駅まで、普通にたどり着き
駅のスーパーで夕飯の食材を買って
旦那の待つ家に帰った。

玄関に入ると、仕事部屋から作業を中断して
旦那が「おかえり」と出迎えてくれた。

何食わぬ顔で日常に戻り、たくさんの嘘をつく。
私は貴重品を戻しながら、離婚届を確認した。
届が入れられた白い封筒は少し汚れて
それでも同じ場所にある。

出すなら、今なのかもしれない。

私は清々しさに似た気持ちを抱えて夕食を作り
旦那に買ってきたお土産のかまぼこを、一緒に食べた。

このウラログへのコメント

  • あにす 2016年01月09日 21:10

    > sa_toさん
    二面性というのか、自分が知る相手は、ほんの一部もないと思っています。
    そして自分自身も、相手にどう思われているのか全く分かりません。

  • あにす 2016年01月09日 21:13

    > モチモチのきさん
    たしかに。
    関係を、どういった形でも完了させるためには、必要なことだったかもしれません。
    女性よりも男性のほうが、そういうことに、こだわるのかもしれませんね。

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