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ドキュメンタリーフィクション

2015年12月18日 23:25

幸いなことに、私はこれまでの人生で1度しかインフルエンザにかかっていない。
ただ、そのインフルエンザの時に、私の伯母が亡くなった。
平成10年11月のこと。

昌子伯母さんは、20年近く闘病生活を送っていた。
病気のせいもあったのだろうけど、色の白い、とても美人な人で
おまけに手先が、とても器用だった。

お見舞いに行くと決まって、気分の良い時に作ったから使ってくれと
綺麗な刺繍を施したポーチなんかをくれた、優しい人だった。
私はこのタイミングを嘆いた。

40度近い熱だったけれど、朦朧とするほどではなかったし
思ったよりも薬が効いている感じだったので、一人で大丈夫だと言った。
何より、母が一番慕っていた姉の葬儀なのだし、自分の分も手を合わせてほしかった。

ただ一つだけ。
妹の介護は無理だから、預け先を探してほしいと頼んだ。
母はすぐに介護施設に連絡し、利用手続きをとったのち
なるべく早く帰ると、午後の早い時間に出かけた。

一人になって、私は、ひたすら眠った。

ふと電話の音で目が覚めた。
気が付くと、辺りはもう、すっかり暗くなっている。
体調も悪いし、電話は無視しようと思っていたのに鳴りやまない。
母から、緊急の連絡という可能性もある。
這うようにして電話にでると、女性ではあったが、母ではなかった。

「康弘さん、いらっしゃいますか?」
聞き覚えのない声。

「すみません、父は不在です」
「いつお帰りですか?」
「いえ、今日は都合で、帰らないと思います」

すると、女性の声は急に変わって
そんなはず、ないでしょうと、責める口調になった。
「約束があったので、今日中に連絡を取りたいんです。
 お帰りの時間を教えてください」
「身内の不幸で、母と葬儀に行きましたから
 今晩の帰る時間だけじゃなくて、帰るかどうかも分かりません。
 どちら様ですか?父にお電話あったこと、伝えておきます」

その後、女性は同じようなことを繰り返し言ったあと
怒ったように電話を切ったので、私は再び、布団に戻り横になった。

ふーん。

父が外で作っていた女って、あんなのなんだ。
自分の娘には口の利き方を怒るのに、礼儀知らずな女。
どんな顔してるんだろう・・・

あれこれ考えているうちに、いつの間にか眠っていた。
驚いたことに、両親が帰宅していて、荷物を整理している。
目を覚ました私に気づくと、母は疲れた顔をして、それでも私の体調を聞いた。

大丈夫?お父さんが、あなたがこんな体調なんだから
 一度帰るべきだって言って、戻ってきたの」

父は、当たり前だろうと不機嫌そうに言った。
「死んだ人間より、今、大変な娘の看病だろう。
 向こうは人もいるし、飲み食いしかしていないんだから
 明日、出直したって同じだろうが」

私は、父に聞いた。
「私の為に、帰ってきてくれたんだ?」
「お前はバカな事を言うな。他に誰の為だ」

自分の為でしょう? そう言って、あの失礼な女のことを言ってやりたかった。
心配してもいない私を理由に帰宅したのに、腹が立つ。

「お父さん、会社の人から電話があったよ。
 確認したいことがあるから、連絡欲しいって言ってた」

父が答えるより先に、母が口を開き、女でしょう?と言った。
「おかしいと思ったの、あなたが亜矢を一人にしておくのは心配だなんて
 普段、そんなことを言う人じゃないもの。
 自分の約束が心配だったから、早く帰りたかったのね」

お嬢様育ちの母は、いつも柔らかい口調で話す人だ。
世間知らずな発言に、イライラした父が声を荒げ
母の常識の無さを罵るという日常だったから
この母の発言は、私のほうが驚かされた。

「早く、連絡をしてさしあげたら?
 死んだ人間より、生きている人ですものね」

「俺が、誰に連絡をするんだ」

「早野さんでしょう?何か月か前、あなたはその人との約束に遅れたわよね。
 あなたが時間になっても来ないって、家に電話があったのよ。
 意地悪しないで、あなたを電話口に出してくださいって、何度もね」

気持ちが悪かった。

重度の障害を持つ妹の介護を中心に、回っている家族。
24時間、妹の世話をして、完璧に家事をこなす母。
定時に帰宅して、必ず夕食を家族と取る父。
妹の面倒見のよい、姉。

初めて、家族に嫌悪感を抱いた。
身内の死より不倫相手を優先した父も不快だし
母の態度も、気味が悪かった。

その時の私は、両親の立場を想像することが出来なかったので
熱が下がるとすぐに、家を飛び出してしまった。

今も、父や母を完全に理解できないでいるが
(そもそも他人を理解するなんて、不可能な話だけれど)
それぞれの立場を想像するだけの経験を重ねて、和解はした。

それに私は、今、父がどこで何をしているのか
すぐに知ることが出来る。

パソコンを買ったから、セッティングしてほしいだなんて
他人にお願いするものではないのですよ、お父様。

このウラログへのコメント

  • あにす 2016年01月05日 01:15

    > モチモチのきさん
    脚色していますが、ほぼ実話ですw
    文章力が上がれば、もっと面白いのでしょうが。
    いろいろな事が過ぎていったから、今が穏やかな生活です^^

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