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逃げる男

2006年08月31日 21:58

一日あたしは彼を貸し切って
彼はあたしを貸し切って
日帰り旅行をした

あたしの地元の海まで2時間半
ゆっくり海を回って名物の烏賊を食べる

その海はあたしにとってパーソナルなスペースで
たいせつな人は必ず連れて行くとこだ

一回り観光して
疲れてしまい木陰で休憩する

彼は病気持ちなので
あたしのペースでずんずん進んでいくと息切れをしてしまうみたい

また彼の寝息を聞いて過ごした




帰りの車の中でウトウトしてしまったら
彼の家をとっくに過ぎて車はあたしの家へ向かっていた
車はあたしの持ち物で
彼を送って帰るつもりだったのに

時間はまだ6時過ぎで家に帰るには少し早い




彼は寝てしまうほどつかれている癖に電車で帰ると言う
そっちの方が心配でしょうとあたしは怒る
じゃ駅まで送ってと車は不穏な雰囲気のまま駅前の郵便局の前で路駐した

「気を付けて帰ってね、後ろの車が出そうだから早くでたほうが良いよ」
そう言い残して彼は車を降りていった

サヨナラの手を振ろうとする彼をみて目を伏せた

あたしは顔を上げない
ドンドンと運転席の窓を彼が叩く
あたしは顔を両手で覆う
もっと強く彼が窓を叩く
あたしはやっぱり顔を上げない

ふいに音が止んで
人が去っていく気配がした

イヤだ・・
とあたしは小さい声で呟いて
行かないで・・
と言った
彼に聞こえない声で

どうして車を降りる前に言えないのだろうと思った

顔を上げたけどもう彼の姿は見えない



後ろの車が出れるように少し車を前に出して、降りた
駅の階段をダッシュで駆け上がる
息切れをしながら周りを見渡すと切符販売機の前に切符を買っている彼がいた

そのまま勢いで彼の腕を掴んで引っ張る
「イヤだ」も「行かないで」もやっぱり言えないでただ黙ってうつむいていた
「ごめんな。すごい疲れちゃってて限界なんだ。一緒にいても寝るだけになっちゃうよ」と彼は言った

一呼吸おいて消え入りそうな声で「ごめん」って言えた
掴んだままの彼の腕を放す
「かえっていいよ・・ごめんね、ごめん・・」
精一杯の強がりだった
ほんとは一緒にいたかった、寝るだけでもいいと思った

彼が改札の前まで動いてあたしはやっぱりそっちを見ることが出来なかった

でもやっぱり気になって振り返ると遠くからこっちをみてる彼がいた

あたしはただ嬉しくて満面の笑みを浮かべたんだろう
笑うとこじゃないのに嬉しくてそれを止められなかった
怒っているのに笑ったのが恥ずかしくて顔を背けた

そしてまた振り返ったとき

彼の姿はそこになかった

あたしの目の端に写ったのは
改札を逃げるように走って出ていく彼の姿

ちょうど電車がホームに滑り込んできていた


殴られたように動けなかった
目の前で起きたことが信じられなかった

ピーッという扉の閉まる合図が聞こえて
あたしはそこに取り残された




3分は固まってただろうか、5分か、正確な時間はわからない
カタンと壁にあたしは背を付ける

放心してた

事実を受け入れられないとなにも感じないものだ
怒りも沸いてこないし悲しくもない
ただ信じられなかった


逃げたんだ
やっとそう思ったのは10分過ぎた頃だろうか

彼が戻ってくるハズはない
それでもぼーっと改札を通る人を見送っていく

そこから動けなかった

しばらく見続けて
フゥとため息をつく

ここにいたってしょうがない
ガクガクする足を引きずって車に戻る
途中何度も振り返る


もういないのは解ってるのに



車に戻ってエンジンをかける
ハンドルに突っ伏して
気持ちはメチャクチャなのに
涙は出てこなかった

このウラログへのコメント

  • チナツ 2006年09月01日 22:38

    がんばる(;′-⊂)

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