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幻の雲で会えたら・・・

2009年09月22日 19:36

幻の雲で会えたら・・・

-----何篇かに分けて継続連載していきます。

よく晴れた日曜日。七月も中旬にさしかかろうとする頃まで、毎日のように雨が降り続いていた。
 朝から太陽がアスファルトに照りつけ、午後ともなれば蒸し暑くてじっとしていても、じんわりと汗が吹き出して来る。

 何しよっかな。
 仕事も休みで朝寝坊をして起きた私は遅めの朝食を食べ、部屋を掃除するとソファーでごろっと横になった。
 私は今年、三十三歳になった。
 この歳になるまで、自分が三十代になったらどんな生活するのか、殆ど想像もしてなかった。
 勿論、子供の頃はなんとなく、普通の生活をしているだろう、と漠然と思っていたし、十代の頃は、普通の主婦をしているだろう、ってどこかで決め付けてた。
 まさか、一人で日曜日にソファーで寝転んでいる、予想もしてない。
 もっとも、将来私はきっと休みの日に、ただ、だらだらとソファーで退屈を
もてあますかもしれません、なんて予想するほうが怖いけれど。

 退屈・・・。
 まるで退屈病にかかったのかと思うくらい、最近の私はよく呟く。
 本当は、私が一番嫌いなことかもしれないのに。
 暇でやることがないなんて。本当はやることがあるのに、だるくて面倒くさくて生きることに怠けているみたいで。
 だけど実際、私の回りにはそんな事実がばら撒かれていた。
 考え中でほったらかした企画。描きかけで投げ出した絵。読みかけのまま
ほったらかした本。
 あとで。疲れが取れたら。
 気分が変わったら。
 とりあえず今はだるくて・・・。
 ああ、退屈。
 そう、思考はだらだらと流れてまた退屈に戻っていく。

 だけど、そうかな?
 手元にあった煙草に火をつけて、天井をみつめる。
 煙草の煙が、ふわっとゆっくり上に上がっていく。
 ゆっくりゆっくり、煙は天井のほうに吸い込まれるように近づいていく。
 紫の、だるそうな煙の流れ。

 多分、退屈という言葉に、私は彼への非難を含めているかもしれない。
寂しい。もっと構って欲しい。毎日の暮らしを共にしたい。
 そんな一方的で、ずるい、子供みたいな欲求。
 
 かまってくれないから、退屈。

 日曜に遊んでくれないから退屈。自分を持て余す退屈。たいくつ、タイクツ・・・。
 繰り返していると大きな退屈の国に放り込まれて、どこまでいっても迷路だらけの国を歩き続けているような無機質な感覚が沸いてくる。
 逃げ出したいのに妙に居心地がいいような、退屈という名の時間。

 彼は結婚している。そう、私以外の違う人と。これはつまり、不倫という関係。
 いけない、と思っているのにずるずると、もう四年も付き合ってしまった。
 最初に体を重ねた翌日、彼は戸惑ったように電話で言った。
「どうすればいいのかなぁ・・・」
 そして、その後に言った。
「家庭は勿論大事だし、壊すつもりはないんだよね」

 不思議と私は傷つくこともなくさらっと言ってのけた。

「壊そうとも思ってないよ。誰かを傷つけたくないもの。私は平気。」

 そんなふうに物分りのいい言葉を吐きながら、心のどこかでぷちっと何かが
潰れたような音がする。
 ぷちっ、ぷち・・・。もう何度も胸の中でそんな音がしただろう。

 窓を叩く小さな音に気づき、目をやると、通り雨がぱらつき始めていた。
雨だ。洗濯物をとりこまなくちゃ。
 誰かと暮らしていても一人で暮らしていても、女が行う家事は大して
変わらない。食事を作り、洗濯物を取り込み、掃除機をかける。
 手早く洗濯物を取りこみ、ベランダの戸を閉めてから、ふと気になって
私はもう一度振り返って窓の向こうを見た。

マンションの八階。いつもは窓の向こうに整然と灰色のビルが立ち並んで
いるのが見える。ビルの向こうには空。
 けれど、その時私が見た視界には、いつもと違う何かがあった。
 窓越しに見る、空とビルの間に、雲のようなものがぽかりと浮かんでいた。

 雲? 雲ならわかる。それは、雲のようでいて雲ではなかった。
だって、あまりに近いんだもの。雲ならもっと遠くにあるはずなのに、
その雲らしきものは、窓のすぐそばにぽかりと浮かんでいた。

 一瞬、私は両手に抱えた洗濯物をぽたりと落として、目をこすった。
 そしてもう一度窓のほうを見る。
 横幅は二メーターくらい。高さは一メーターくらいの雲みたいな楕円形の
ほんわかしたもの。
 どうみても限りなく雲にそっくりなそれは、窓から手を伸ばしたら
届いちゃうんじゃないかって程、近くにあった。

  続く----------禁無断転載・引用
著作権office-miraiに帰属し、守られています。引用される方はあらかじめメッセにて
御知らせ下さい。---------

このウラログへのコメント

  • まりぃ 2009年09月23日 06:06

    次の日記から連載となり、全7編ですので次回の更新で
    当たったら豪華粗品プレゼント!!! (え゛ 

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