忌まわしき噂／共同便所　

『気晴らしにペットを飼っているんです』

河合譲治（３１歳）精油所の技師　酒も煙草もマージャン　パチンコ　競輪　競馬もやらず誰からも無類の堅物と思われていたが　実は密かにナオミという女を飼育している

ナオミの飼育日記　その一

ナオミを初めて見たのは行きつけの喫茶店だ　

陰気で無口で顔色の悪い１８歳のウエイトレス

だけど利口そうで　あんな店には勿体無い

第一名前が気に入った

引き取って教育し　立派な女になったら　結婚してもいい

家は飲み屋で　夜はそこで働いている

幸いナオミの家族達も承知してくれたので　貸別荘を一件買って下宿から移る

ここなら海も近くて日当たりも空気もいいから　ナオミも健康になるだろう

と　言っても　ナオミと結婚したワケではない

彼女と他愛のないママ事をやり　私は親切なオジサンとして相手をつとめる

もちろん寝室は別だ　


「痴人の愛」（１９６７年日本映画）
監督：増村保造
原作：谷崎潤一郎
出演：安田（大楠）道代　小沢昭一　田村正和　倉石功


ナオミの飼育日記　その二

ナオミ　ひと夏で泳ぎを覚えてしまう

実に美しくたくましい！　まるでイルカのようだ

彼女は日ごとに元気になる

子猫のようにピチピチして快活だ

彼女の肩　胸　腰　脚　

どの部分を眺めてもカブりつきたいような魅力がある！！


「まったくいいカラダだな　君は僕の理想通りの女になってきたよ　しかしもっとピアノと英語を勉強して利口にならなくっちゃ」

「利口になるより早くお嫁さんになりたいな　譲治さんの」

「僕だって我慢してるんだ　君も辛抱しなくちゃ」

「辛抱なんてイヤ！　さぁ　今　ここでお嫁さんにして！！」


ナオミの飼育日記　その三

田舎の母も許してくれたので　籍を入れ　ナオミは私の妻になった

寝室は一つにして大きなダブルベッドを入れた

ただ　大っぴらな結婚式は２～３年先に延ばすつもりだ

二人だけの楽しい世界を人に知られたくないので

カラダは日に日に女らしく美しくなってなってゆく

胸もお尻も見事に大きくなって成熟してきたが　天は異物与えない

賢い立派な女になる気配がまったくないから困る

例えば服だ

ナオミの好きなやつは　ただケバケバしいだけで品がない

しかも贅沢で何着でも買いたがる

２０万円もするピアノを買ってやったのに先生が気に入らないから辞めると言う

要するに飽きっぽくて根気がない怠け者なんだ

その上だらしがない

料理も洗濯もしないで食事は外から取り寄せ　汚れ物は放りっ放しだ

こいつは一つシメる必要がある


とは書きつつも譲治の言いつけそっちのけで譲治が居ない昼間にボーイフレンドと奔放な遊びに興じ、いつしか「共同便所」とまで囁かれるようになる若妻ナオミであった。。。


イタリア仕込みの粘着性で女を終始描き続けた増村保造監督による谷崎潤一郎原作の４度目？の映画化

この作品は一言で表すとＳＭ版「マイ・フェア・レディ」（笑）

「痴人」のナオミには安田（大楠）道代以外に京マチ子、叶順子、水原ゆう紀が演じているそうな。。。

安田（大楠）道代版以外は観た事ないので比較して書けないのが残念ですわぁ。。。

今観ても、タイトルバックや所々出てくる沢山のナオミのフォトがとってもキュート！
ヌードってああやってキレイに撮れていると、観ていてとても美しいなぁ。。。
って思います！！

しかし、なんだかんだあってもナオミと譲二、絶妙な二人です！

男が自分好みの女に躾けようとして逆に支配されてしまう。。。
この手の悪魔的ストーリーって今までいくつか取上げてきました

大抵は、女が離れていく、もしくは男が破滅に向かう結末になっていましたが、ＳＭを紛れもない愛の形として明確に提示している

譲二が馬になってナオミが
「さぁ！走るのよ！」
と尻を叩き家の中をぐるぐる回る姿
あまりに滑稽で哀れな姿
なんだけれど、美しい「男と女」姿にも思えたんですよ

ナオミは譲二が居ない昼間にボーイフレンドと遊び狂っていたわけだけれど、結局譲二以外本気で構ってくれる男は居なかった

だから最後にすがりつくのは譲治のような男しか居ないんですよね

でもそれでいいと思うんですよ
ナオミの選んだ男は正しいと私は思います

女はね、愛して、可愛がってくれる人と一緒にいる方が幸せに暮らせるから

よく言うじゃないですか！
栄養と水を貰えない花は美しく咲けないって。。。

女もそうだから。。。
豊かな愛情と安心感を感じて生きている女は幾つになっても素敵な人でいられると。。。
思うんですよ

しかし、この作品の田村正和は若い！！
ナオミの遊び相手の一人として登場するんですけれど
パンツ一丁で譲治にフォークで詰め寄られる姿がなんとも笑える。。。
それでも田村正和はこの頃から「田村正和」してますねぇ（笑）
昔からあんなだったんだぁ。。。