「かわいい」

世の中にはわからないことがたくさんあります。
そんな物事は数多くありますが、男性にとって代表格といえるのは女性の言うところの「かわいい」であると思います。
意識的なのか無意識的なのか、女性の会話に耳を傾けているとなかなかの頻度でその言葉が使われています。

「友達にすっごいかわいい子がいるんだ～」と話を聞いて、どれどれと面会してみたらすごい美人あるいは失礼ながら若干不細工な方だった。これはかわいいとは違うのでは？と首をかしげた・・・ということは、感覚の差異としてしばしば取り上げられることです。

なんらかのキャラクター・・・例えばかの有名な世界的ネズミであるミッキーマウスを指してかわいいというのなら、それは理解の範疇に入ります。
キャラクターというのは基本的に愛されることを目的として創造されますし、ミッキーマウスのコンセプトから考えても、愛でる対象となるのは道理というものですね。
しかし、抽象的なものに対する「かわいい」は理解に苦しむ場合があります。

小学校6年生のとき、エンドウさんは数人の友人と共に新聞係なる役職を拝命していました。クラスを盛り上げるための機関紙のようなものを製作・発行するという、今考えてみれば非常にどうでもいい係です。
しかし当時は真剣でしたから、毎月の発行に向けて子どもなりにあーでもないこーでもないと企画を練りました。
さすがに現物は残っていませんが、記憶を呼び起こせば、マンガを連載してみたり話題のテレビ番組について触れた記事を書いてみたりと苦心の様が伺えます。

新聞係の面々は工夫の数々を凝らしてクラス新聞を盛り上げようとしていましたが、どうもうまくいかない。・・・それ以前に、「おもしろかったよ」という肯定的な反応どころか「つまらない」との否定も出てこないので、本当に読んでいる人がいるのか疑いたくなるような状況でした。
これを打破するためにはどうすればいいのだろうか・・・とクラス新聞を読み直しているときに、ある欠点に気がつきました。
ひたすら発行を続けてきたが、実は独りよがりではなかったか。一方的に情報を発信しているだけで読者のことをまるで考えていない。
クラスのみんなと一緒に盛り上げていくことが大切なのでは？と思い至りました。

今のクラス新聞に足りないものは読者参加型企画だ！
ものすごい発見をしたかのように舞い上がった新聞係一同は、当時人気だったドラゴンクエスト５を取り上げます。
そして、主人公やスライムなどの有名どころのモンスターをいくつか選出し、人気投票をしようと画策したのでした。
思い返してみればお世辞にも賢い企画とはいえません。人気があったとは言ってもそれは男子の間に限られたことで、女子はドラゴンクエストなんかに微塵も興味を持っていなかったのですから。

いざ人気投票を始めてみると、さすがに男子の食いつきは良好でした。
しかし、女子の反応が全然よろしくない。
興味がないからだということなんて思い至るはずもなく、僕らは首をかしげていました。そこに、とある女子集団のボス猿的ポジションに居座るクラスメートがやってきました。強引で意地悪で、正直苦手な奴です。
そいつが苦心の人気投票を見て言うんですよ。
「なにこれ？こんなの全然かわいくないよ！」
それどころか断りもなく紙面にハートマークを描いて、「コレがかわいいと思う人～！？」とわざとらしくアピールしてくれやがりました。
すると、申し合わせていたかのように取り巻きがわらわらとやってきて、ボス猿が描いたハートマークに投票していき、僕らの苦労は見事にかき乱されました。ちくしょう。

アクセサリーなどでしばしば見受けられるように、ハートマークは女性とは切っても切り離せないようなシンボルなのでしょう。
ハートマークの抽象は心臓に端を発していると思われます。
それに止まると若干グロテスクなシンボルとなってしまい、かわいさのかけらもなくなってしまいます。しかし、そういうことではないですよね。
心臓から心。心が表すもの、つまり気持ちというように連想的に意味合いを転じていったのでしょう。
その末に、気持ち、特に正の感情を表すものとしてハートマークにかわいらしさを見出していったのではないかと思います。

そんな理的を装った見解を示してみても、疑問は晴れません。
一般的にかわいいとされる色はピンクで、その色をしたハートマークが好を表すのはなんとなくわかります。しかし、世の中には暖色寒色に止まらず黒色のハートマークなんていう不可思議なものまで存在します。
ブラックハートなんてどうにもかわいいと思えないのですが、それを「かわいい～」と言う女性もいて、やっぱり「かわいい」の基準ってわからないなと思うのでした。