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東京直下型地震

2016年02月08日 19:14

アメリカで極秘レポートが作成された。東京直下型地震が起きた場合の日本の経済損失は約110兆円。その影響は日本にとどまらず、「1929年の世界恐慌の再来となるかもしれない」とアメリカ政府は危機感を募らせる。

その頃、日本でも「M(マグニチユード)8を超える東京直下型地震が5年以内に発生する確率は90%」とする地震研究者の最新予測がまとまった。

だが、ふたつのレポートを前に日本政府の対応は鈍く、アメリカ政府はいら立ちを隠さない。そこに、前兆となる震度6弱地震が発生。日本政府はついに重い腰を上げた――。
 
高嶋哲夫氏はこれまで『M8(エムエイト)』『TSUNAMI津波』などで巨大自然災害破壊力リアルに描いてきた。そして、3・11(東日本大震災)を経験した日本は、迫りくる東京直下型地震にどう備えるべきか。高嶋氏が長年温めてきた構想を『首都崩壊』で日本政府に突きつける。

―『首都崩壊』というタイトルから、巨大地震の描写がもっとあるのではないかと思いました。

高嶋 東京直下型地震については『M8』ですでに書いていますし、“災害作家”と呼ばれるのが実はイヤだったんです(笑)。今回のテーマのひとつは首都移転です。首都機能の移転が議論されだした1980年代から資料を集め、本を書きたいと思っていました。ただ、当初は現実性がなく、どう書いていいかわからなかった。そこに3・11が起きた。首都東京が巨大地震に襲われたら災害復旧や復興を指揮する政府機能という「司令塔」がなくなってしまう。事前に司令塔の一部でもほかの地域に分散しておくべきだと考えたのです。

首都機能移転の議論は忘れ去られていますね。

高嶋 地方神戸)に住んでいると、東京一極集中をなんとかしないといけないとすごく感じます。それを解消するには首都に対する考え方を転換しないといけない。東京首都でなければならない理由はないし、首都を1ヵ所に限定する必要もない。今の時代ならICT(情報通信技術)と高速交通網を活用すれば、ほかの地域に首都機能を分散しても大きな問題はないはずです。

小説中では「首都機能移転」とともに「道州制」も導入すべきと指摘されています。

高嶋 都道府県の単位を超える問題が増え、地方分権を進めるためにも47都道府県の枠を超えた「道州制」導入の議論がこれまでも行なわれてきました。今の細分化された都道府県の枠組みでは、地方の衰退は避けられない。例えば、鳥取県人口東京世田谷区よりも少ない約60万人です。人口流出を食い止め、地域の発展につなげるにはひとつの県の力だけでは限界があります。複数の県が同一の問題に対処する道州制の導入は避けて通れないと思います。

―さらに東京直下型地震は日本だけの問題にとどまらないと。

高嶋 政府は、30年以内に70%の確率で起こるとされるM7.3の直下型地震で約2万3000人の人が亡くなり、約95兆円の経済損失が出ると試算しています。この本では実際の政府試算をもとに、直下型地震が現実に起きたら何が起き得るかを描きました。2009年に端を発したギリシャの財政赤字問題は10兆円程度。それがユーロ危機にまで発展した。日本はすでに1000兆円を超える“借金”を抱え、さらに地震で巨額の経済損失が出ると、一気に財政破綻に至る可能性がある。それが発端となって世界中株価暴落するなど、世界恐慌が起こることも十分考えなければいけません。

―それにしては小説でも現実でも政府の危機意識が足りません。

高嶋 先日、首都直下型地震南海トラフ地震について沖縄に駐留する米海兵隊将校レクチャーしました。携帯やパソコンなど電子機器の持ち込みが一切禁止されている海兵隊の作戦会議室で約30人の将校を前に2時間ほど話をしたんですが、「日本の災害の話なんかアメリカには関係ないだろう」と思っていたところ、みんな真剣にメモをとっていました。アメリカでは西海岸地震が起きます。東海岸では地震はほとんどないですが、ハリケーン被害がありますから、自然災害に対する関心が高いのでしょう。

一方、日本はアメリカ国債の世界第2位の保有国でもあるので、同じような講演を日本の国会議員にもしましたが、反応はイマイチでした。アメリカ人は「地震が起こったときのために準備する」と考えますが、日本人は「地震が起こったら怖いけど、たぶん、起こらないだろう」と考える。日本人は現状維持がいちばんだと考え、変化を非常に嫌いますから、東京直下型地震と財政破綻というふたつの“地雷”を抱えながら何もしないのでしょうね。

―しかし、「想定外」といわれた3・11が起きました。それでもこの反応しかできないのは、日本人の想像力が足りないのでは?

高嶋 東京直下型地震は、1995年の阪神・淡路大震災のような人口密集地で起こる都市型、南海トラフ地震は、都市型に加え3・11のように広い範囲に被害をもたらす広域型の両方の地震になります。電気、ガス、水道などが止まるのはもちろん、首都圏を含め太平洋岸の交通網もズタズタになります。援助物資もすぐには届かない事態を想定しないといけない。しかし、備えはまったく不十分です。米軍はすでに沖縄基地にかなりの物資を集積していると聞いていますから、今のままでは、米軍が頼みの綱になってしまうかもしれません。

東京直下型や、それ以上の被害が想定される南海トラフ地震に備え、政府は防潮堤の整備など国土強靱(きょうじん)化計画を進めています。

高嶋 復旧・復興に対する考え方は3・11後も何も変わっていないし、完全に間違っています。被災地では住居の高台移転や「想定外」の津波に耐えられるような街づくりが進められています。でも、その津波が来るのは早くて600年後。そんな先のことを考えた壮大な計画のために街が動かない。3・11の半年後に気仙沼(けせんぬま)に行きましたが、瓦礫(がれき)の山があるだけで、人はいませんでした。

阪神淡路の「復旧は迅速に、公平に」という教訓が生かされていないからです。震災後、行政がすべきことは「原状復帰」、つまり、人々が日常生活を早く取り戻せるようにすることです。そのためには、仮設住宅を無償提供して自宅の敷地内に建てられるようにする。あるいは、津波に流されて人の家に突っ込んだ車の処分を、所有者の了解なしにできる、というような現実的で、細かい法律を整備しておかなくてはいけないのです。

―3・11はどのような影響を高嶋さんに与えたのでしょう。

高嶋 3・11の前にはM7クラス宮城県沖地震が30年以内に発生する確率は99%とされていましたから、3・11の最初の津波の映像を見たときは「ついに来たんだ」という印象でした。でも、津波の被害がだんだん大きくなり、ビニールハウスを壊しながら平野部を走る津波の映像を見たときはショックを受けました。家や先祖代々のお墓が流される光景を見て、結局、人間はひとりで生まれてきて、ひとりで死んでいくのだなと考えざるを得ませんでした。

同時に生き方を変えないとダメだと思いました。日本では地震津波は必ず起こります。その日本に住むにはそれなりの覚悟がいる。形あるものはいつか壊れる。もっと大切なものがあるのではないか。「絆(きずな)」もそのひとつだと思います。ものや土地に縛られるのではなく、もっと柔軟に、自由に生きることを考えたほうがいいのではないでしょうか。

(構成/西島博之 撮影/五十嵐和博)

高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年生まれ、岡山県出身慶應義塾大学工学部卒業同大学院修士課程修了。日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学留学。94年、『メルトダウン』(講談社文庫)で第1回小説現代推理新人賞受賞。『M8』『東京大洪水』(ともに集英社文庫)など著書多数

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