山さん・・・

僕が
東京に来て 間もない・・・

確か…

三つ目の
アルバイト…


そこで…

「山さん」と

出会いました…



山さんは…
自営で一人で仕事をしていました


貧乏なくせに不規則にしか仕事が出来ない、僕のわがままを理解してくれて


公私共に大変お世話になった、非常に真面目な方です。




…………………


ある日…


仕事で新築の豪邸に行った時…


そろそろ…


僕も一人で作業出来る様になって来ていたので…


シュウジちゃん！
各部屋の照明器具を付けてくれるかなぁ

もう
一人でも大丈夫だよね


初めてそう言われ…


大丈夫っすよ！
任せて下さい。


と言って…


早速…

僕は仕事にかかりました


…………………


何とか…

午前中で全ての作業が終わり…


昼ご飯を食べに行こうと 山さんを
探したけれど…


いない…


でも…


今迄も
何も言わないで僕を残して 他の現場に行った事があったので…


特に気にすることもなく…


一人で昼ご飯を食べに行こうと…


現場監督に…


すいません！
昼行って来ま～す！



おう！了解！

おっと
そうだ　そうだ！

今からここのオーナーが見に来るから
道具と脚立片付けて
外にだしといてくれ！

じゃあ
迎えに行って来るから
戸締まり頼むな！


はい！
わかりました！




僕が使っていた脚立と…
外に立てかけていた
長い梯子や道具を片し…
戸締まりをして…

一人で昼ご飯を食べに行きました


一時間位経って…
現場に戻って来て…


次…
何すればいいんだろうと
山さんを…
散々探したけれど…

やっぱり現場にはいない…


他の現場に
行ったのかなぁ～




駐車場に車を見に行くと…車がある


なんだぁ
電車で行ったのかぁ
車で待ってよ～

と…

ヒーターをつけて
ポカポカの車内で
一時間位昼寝…


もう現場監督も
オーナーと帰ってきてる頃かなぁ

と…現場に戻ってみると

オーナーに監督がいろいろ仕上げの説明をしていた


しょうがないので
外に出て掃除をしていたら…



シュウジちゃ……ん



微かに山さんの声が…



シュウ…ちゃん…



上を見ると…


いびつな形をした屋根の上から…


少しだけ…


手が見えた…


あっ！
山さんだ！



そういえば…


今日
アンテナ工事するって言ってたっけ…


やばっ！
梯子片付けて降りれなかったんだ！


この寒空の中…

朝から６時間も屋根の上にいたんだ！



僕は直ぐに
片付けた梯子を取りに行って
屋根の一番低いところにかけました




山さ～ん
降りて来て下さ～い



すると…



シュウジちゃん！

ズボン…





ズボン？？



なんのことかわからず…




山さ～ん
梯子かけましたから
降りて来て下さ～い




騒ぎを聞き付けた監督と オーナーが来たので…
降りれなかった事を説明していた隙に…


山さんが降りてきた…


よっぽど寒かったのか
首までジッパーを上げた 防寒着を着て…


でも…



えっ！？



下は…


七分丈のステテコ…



なんで？


良く見ると…



ステテコが
ビショビショ…



ま…まさか



そうなんです

54歳の…いい歳した


山さんが…


おもらし…





梯子を片付けた…
僕が悪いので…

ここは笑っちゃいけない



監督は事態を直ぐに察知して…
オーナーに…
何事もなかった様に…
ごまかして
話しかけて
また説明を続けた…



誰も…


その事には触れない…



…………………




朝から屋根上でアンテナ工事をしていた
山さんは…


オシッコしたくなって
降りようとしたけれど…


梯子がない…

もう我慢も限界…
しょうがないので…


屋根上からオシッコをしようと体制を整えて…
今まさにしようとした…


瞬間…


前のマンションの住人と目があって…


睨まれて…



そのまま…



睨まれて…

さっとしまって…


目があったまま
我慢して…いた…
けれど…


そのまま…


ばれないように…
顔色ひとつ変えずに…



目をあわせたまま…

ジョボジョボジョボ…


更にそれから数時間…



屋根の片隅に
体操座りをして…


助けを待ったそうです…



……………………



それから…
山さんは…


本屋に行ったら
トイレに行きたくなるのと同じ様に…

屋根に登ったら尿意をもよおす様になってしまった…


為…


アンテナ工事は…
高所恐怖症の僕がする事になってしまいました…




でも…



それが…

せめてもの…


償いです…




山さん！


ごめんなさい…