絶妙のバランス

「彼氏がいるなんて思いませんでした？」
ずっと後になってから彼女は言った
二つ返事で付き合いはじめてしばらくして、彼女の部屋に車から電話をかけてくる金持ちの彼氏の存在がわかったが、僕は何も言わなかった。
「そんなこと考えなかったよ」

「会ってくれますか？」
「いいですよ、じゃ・・の駅で」

「どうして、あたしに声かけたんですか？」
「綺麗だから」
「そんな・・」
「あたしなんか、どこも気に入っているところないですよ」

「まだ支度してないの、上がって待ってて」
「着替えるから、ちょっとむこう向いてて」
「また、もう一回むこう向いてて」
「ねぇ、見てどう？」
「すっごく、綺麗だよ」

表参道あたりを歩いていると
「すみませんモデルの事務所、所属してますか？」などと声がかかることがある、ちょっと離れた隙に声をかけるようだ。僕が行くと「あっ、失礼しました」と言って退散していった。

１６５ｃｍの彼女は７ｃｍのヒールをいつも履いていた。
僕のBASSのウィージャンは２ｃｍ、ちょうど１０ｃｍ差になる。
向かい合ってほんの少しかがむくらいで抱きしめてキスが出来そうだ。
これ以上ない絶妙のバランスだった。