舞い降りる白

肌を刺すような寒気は、やがてそれが訪れることを予感させていました。
一瞬だけその姿をちらつかせることはあってもすぐに散ってしまい、はっきりとその姿を僕の前に見せることはありませんでした。
しかし、今朝。
眠気で沈んでしまいそうな気持ちを奮い立てて、新しい一日を開くようにカーテンを開けると、そこにはふんわりとした白が舞っていました。
名古屋の空に雪が降りました。

雪というと幻想的でキレイなイメージがあるのですが、実際問題としての雪は厄介者以外の何者でもありません。
名古屋にも雪が積もるときは積もりますし、その影響で交通機関が麻痺することがあります。けれど、激しい降雪に見舞われる地域に比べれば、まあたいしたことはないでしょう。
それでも、エンドウさんにとってはやはり、できることならば敬遠した自然現象であります。見ている分には文句はないのですけどね。

今日は朝から夕方までバイトが入っていました。その勤務時間、実に九時間半休憩込み。
バイト先に出勤するためには、自転車で３０分弱ほどのところにある最寄り駅に行かなければなりません。市バスも通っているのですが、本数が少なく、それに合わせると遅刻か早出になってしまうので使い勝手はよくありません。
ただでさえ寒い中を自転車で滑走するのは涙が出そうなのに、雪さえも舞う中を行くとはなかなか悲しいものがあります。
走っていても止まっていても施されていく雪化粧。雪をまとった色男・・・なら申し分ないのですが、当の本人は寒いだけですよ。
でも、今日はがんばれる。
『LOVE COOK』が待っているから。

そんなわけで、大塚愛のアルバム第三弾『LOVE COOK』を買ってきました。
豪華版(CD＋DVD)、限定版(CD＋絵本、CD＋フォトブック)の三種同時発売という、ファン泣かせな仕様が大変憎たらしい。
avex！この野郎！
好きなアーティストを問われたら、大塚愛と答えるほどにはファンですが、全てを買い揃えるほど熱狂的ではありません。とりあえずは歌を聴くことができればそれでいいので、無様に消費させられてたまるかってなもんです。
ちなみにエンドウさんが購入したのは絵本付の限定版です。
ミュージッククリップを収録したDVD付はいつでも買うことができますし、多分見ません。
ビジュアルよりも歌に重きを置いていますので、フォトブックもあまり魅力がありません。
そんな消去法と、不良なりとも保育なんて学んでいる経緯のせいなのか、絵本付を買ったんですよ。まあ、純粋な絵本として見るとゴミみたいなものですけど。
絵本の名を冠した詩集とでも捉えたほうがしっくりきます。

バイト先の肉屋はシフト通りに勤務が行われることは少ない。
中途半端に人数が足りない上に、人数が少なくなる時間帯に客が集中するものだから、帰りたくても帰れません。仲間を見捨ててあがるなんて、良心が痛みます。
しかしながら、本日は大塚愛。
シフトが組まれている以上それには応じるけれど、残業なんてやってられません。
「俺は大塚愛のニューアルバムを買いにいくから、後は任せた」と言って、脱走しようとしたら、後輩が目の色を変えて食いついてきました。
どうやら大塚愛の熱狂的なファンらしく、妙なところで話が合いました。しかし、彼が肉屋に来てから半年以上経っているというのに、お互いに知らなかったとはとんだ灯台下暗しでした。

この後輩君は彼女がいるのですが、彼があまりにも大塚愛に熱を上げているものですから、明らかに嫉妬しているそうです。
私というものがありながら他の女に夢中だなんて！・・・というようなところだと思いますが、それは実に見当違いというものです。
言うまでもなく、大塚愛は一般人ではなくアイドルですね。
大塚愛という役割を担うことによって位置する、羨望を集める偶像として存在しているのです。彼女はひらひらと揺れる光としてあるからこそ憧れるのですから、手に届く場所にいてしまうと熱が冷めそうです。
もし、大塚愛が「エンドウさん好き！結婚して！」とすがり付いてきても、アイドルでない彼女に食指が動かされるかどうかわかりません。
ですから、アイドルと彼女は全然違うのです。

料理をコンセプトとした今回のアルバムにおいて、エンドウさんのお気に入りは「5:09a.m.」と「ラーメン3分クッキング」のふたつ。
朝影に色づく始まりのときを歌った前者と、ナンセンスで空っぽの頭に心地よく響きそうな後者です。
幅広い表現方法を模索している大塚愛ですが、特に頭がおかしくなりそうな馬鹿っぽい歌を提供できるところが、エンドウサンにとっては魅力なんですよ。
二度三度と繰り返し聞いていましたが、先ほど妹に貸したのでしばらくは返ってこないかと思います。
まあ、アイドルは共有財産ですから良しとしましょう。