ご隠居と八っつあん

「こらまたご隠居、いい天気でございますな」

「おう八っつあんかい、久しぶりじゃねえか、まあ茶でも飲んで行きな」

「こらまた済みませんご隠居、では遠慮なく」

「それにしても八っつあん、この頃の子供達ってのは、どうも外で遊びたがらないね」

「そうなんですよご隠居、うちの子供たちも学校から帰って来たらすぐにDSだのWiiだのと言ってずっと家の中で遊んでるんでさあ。ほんとに困ったもんです。何かいい考えはないもんでしょうかねえ、ご隠居」

「そうさなあ、八っつあん、まずは子供達が面白いと思う遊びを教えるのが先決なんじゃないかねえ」

「なるほど、遊びですか。でもどうなんですかねえご隠居、あっしらがガキの頃は、野球だ探検だって、暗くなるまで外で遊んで叱られたもんですが」

「そりゃそうなんだが八っつあんよ、今の子供達は可哀相だよ。外で遊ぼうにも昔のように空き地がない。自転車で出かけるには車ばかり。昔のように子供達だけで遊ばせるにはどうにも、危なくてしょうがない」

「そうそう、そうなんですよご隠居。あっしもそれが心配なんで」

「だからねえ八っつあん、何か子供達が安全に遊べて、尚且つ外で体を動かせる遊びを大人が考えてやらないと」

「それは分かるんですがご隠居、子供の遊びを大人が考えてやるというのは、どうなんでしょうかねえ」

「う～ん、それはそうだな。何か妙案はないもんじゃろうか」

「それはそうとご隠居、うちの息子が最近色気づき出しやがって」

「おうそうか、お前のところの賢ぼうも遂にそんな歳になったかね」

「そうなんですよご隠居、あっしはもう、嬉しいやら心配やらで」

「心配するこたあねえよ八っつあん、それが大人になるってことだよ」

「それは分かるんですがご隠居、この前はうちに女の子を連れて来やがって」

「おお何と、もうそんなことまで」

「そうなんですよご隠居、あっしはもう、どうしていいやら」

「そうか。お茶を出したりしかし余り口を出さないようにしたり、親は気を遣うね」

「そうなんですよご隠居、あっしはもう、よそ様の大切なお嬢様に何かあっちゃなんねえ、と気が気じゃなくて」

「そうかい。で、お前さんのうちに来て賢ぼうと彼女は何をしていたんだい」

「それがその、二人でWiiで遊んでたんでさあ」

「あれ、それはまた子供みたいだね。せっかくのデートがWiiとは」

「そうなんですよご隠居。あっしはもう、安心するやら情けないやらで」

「何も情けなく思う必要はないってもんよ、八っつあん。で、二人でWiiの何のソフトで遊んでたんだい」

「それが、またポケモンのゲームと来てやがるんでさあ、ご隠居」

「へえ、中学生にもなってポケモンかい。それはまたちょっと意外だね」

「そうなんですよご隠居。しかしね、息子の話を聞いてみると、息子の友達も皆、うちに彼女を連れて来てはポケモンのソフトで遊んでるらしいんでさあ」

「へ～え、こいつは驚いた。今時の中学生がそんなにポケモン好きだとはね。で、ポケモンの何てソフトなんだい」

「それが、一番新しいポケモン不思議の何とかってヤツらしいんでさあ」

「おう、あれかい、テレビで盛んにコマーシャルをやってたヤツだね。あれは何と言ったかね。ポケモン不思議の、ダン、ダ…　ダ何とか、と言ったな」

「そうなんですよご隠居。ポケモン不思議のダンジョン」

「おう、それだそれ。で、その不思議のダン何とかがそんなに面白いのかい」

「いや、それがどうも、名前に意味があるらしいんでさあ、ご隠居」

「名前に?　それはまたどうしてだい八っつあん」

「いや、聞けば成る程って感じなんでさあ」

「どう成る程なんだい、八っつあん」

「ご隠居、ほんとに聞きたいんで」

「何を言ってるんだい八っつあん、人をここまで心配させておいて。聞きたいに決まってるだろう」

「分かりました。ではご隠居だけに教えますから、誰にも言わないでくださいよ」

「何だいこらまた。そんなに大層な秘密なのかい」

「いや、そんな大層なものって訳じゃないですが」

「八っつあん、勿体ぶらないで早く教えてくれよ。わしはもう知りたくてしょうがないよ」

「ではご隠居。ここだけの話ですよ」

「分かってるって」

「今の中学生達は…」

「…中学生達は?」

「ポケモン不思議のダンジョンで遊ぶのを、こう呼ぶらしいんでさあ」

「…何だい、早く教えてくれよ」

「…ダンジョン交際」




ちゃんちゃん。