或る別れ

秋から初冬に差し掛かっていたと思う。
山間の貯水池を取り巻く道路の脇に車を止めた。

晴れた日でもほとんど車の通らないような道。
折からの雨がたたきつけるウィンドー越しには
すぐそばにあるはずの湖さえはっきりとは見えなかった。
もしほかの車が通りかかったとしても
車内の二人の存在は分からなかっただろう。

不倫関係の清算を言い出したのは私の方だった。
長い時間をかけて彼女を説得した。

かたくなだった彼女の心も
ようやく「あきらめ」と言う着地点に到達しようとしていた。

そして、最後のさよならをする場所として
「人目につかない場所で」という彼女のリクエストで
この山間まで車を走らせたのだった。

雨脚はいっそう激しさを増していた。
私には視線を向けないまま
ぽつり、ぽつりと彼女の口からこぼれる言葉も
雨音に消されがちだった。

ふと、彼女の言葉が止まった。

そして息を吐き出すように言った。


「最後に…もう一度だけ…して…」






続きはWEBで(笑)