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初めてのキス・・・

2006年01月15日 00:00

彼女がいなくても取り立てて焦ることはありません。
恋人は生活に彩を添える存在なので、いないよりはいたほうが楽しい。しかし、例えいなくても自分のために当てられる時間が増えるので、人生において致命的なマイナスにはなることはないだろうと思います。
まあ、常に他人とのつながりを求めたがる人には辛い状況だとは思いますが。
一人身は気楽でいいのですが、ふとした瞬間に寂しさのようなものを感じます。それは本当に刹那感傷なので捉われるようなことではありませんが、飛来したものは確かです。
そんなときに、デートの別れ際に何気ない仕草でキスをするカップルを見てしまうと、一人では届かない世界を目の当たりにしてしまい、いいなー代わってくれよなんて思います。

以前に書きましたが、もうかれこれ2年はセックスをしていません。
しかし、女性の肌を求めてむずむずと湧き上がる欲求不満は、なんだかんだでオナニーによって発散できるので大きな問題になりません。
それよりも切実なのはキスができないということです。
唇という、身体におけるほんの一端が触れ合うだけなのに、あのとろけるような感覚はいったい何なのでしょうか。
ちゅっと触れるだけの軽快なものから、ねっとりと舌を絡めあう濃厚なものまで、キスの仕方は様々ですが、それだけで気持ちが通じ合うような気がするのはエンドウさんだけではないかと思います。

もしもの話。
この先、挿入キスのどちらかしか選ぶことができないとしたら、間違いなくキスを取ります。手とはまるで違う膣の感触によりペニスを擦過するというのは確かに得がたい快楽ですが、キス犠牲にはできません。
人間は精神の充足を求めます。
巷には「愛を取るか金を取るか」という二者択一の問題がありますが、これは実にくだらない。愛であろうと金であろうと、自分がより精神的に満たされるほうを選べばいいわけです。他人の価値観に左右されず、自分で価値あるものを選び取ることは精神の安定へと繋がる道です。
もちろん、どちらかしか選べないというのは極端な話なので、キスをして挿入もしてセックスをすることができればそれに越したことはありません。
ただ、エンドウさんの場合は挿入よりもキス比重を置いているということです。

幼い頃のエンドウさんは性的な事柄には興味津々であった反面で、非常に恥ずかしがり屋さんでした。
セックスはしてみたいけれど、したいなんてとても言えることではないと思っていました。口にしたら恥ずかしすぎて死んでしまいそうです。
それどころか、胸を触ると考えただけで赤面し、キスという言葉を目にしただけでどきどきしてしまうような純情っぷりでした。

そんなエンドウさんにもやがてファーストキスをするときが訪れます。
あれは、当時の彼女と港場のようなところでデートしたときのことでした。
付き合い始めて一ヶ月ほどを経たエンドウさんは、恥ずかしさを押し込めてようやく手をつなぐにいたっていました。初めてまともに握る女性の手というのはなんとも柔らかで、無骨な男のそれとは全然違う感触です。
もっと触れ合いたくて力を強めると、自然と指を絡めあう形へと移行しました。興奮が脳髄を焼くので、必死に平静を装おうと努めます。多分、その焦りは伝わっていたのでしょうが、何も言わずに握り返してくれたことは嬉しいものでした。
手をつないだまま、日が落ちて暗くなった港場を歩きます。
どちらも特に言葉を発するわけではなく、ただ歩を進めていました。その沈黙の中で、キスをしたいという気持ちが急速に育ち始めました。

後に聞いた話ですが、彼女は俺が手もつないでくれないことに不安を感じていたそうです。もしかしたら自分は好かれていないのではないだろうか・・・という相談を受けたと、共通の友人から打ち明けられたのです。
彼女のことはとても大切に思っており、単にエンドウさんがチキンで踏み出せなかっただけなのですが、そんなことを知る由もない彼女には不安要素にしか映らなかったのです。まあ、当たり前ですね。
ですから、俺のほうから手をつないだことが後押しをしてそれを言わせたのでしょう。
「・・・なかなか進展しないよね」
そんなことを言わせてしまっては、もう恥ずかしいも何もあったもんじゃありません。気持ちは一致しているのですから、勇気を出すところです。
恐る恐る彼女のほほに手を添えると、一瞬だけ身をこわばらせるのがわかりました。僕らはお互いに目を閉じ、ゆっくりと唇を近づけていきました。

・・・初めてのキスはグロスの味がしました。
デート前、彼女の唇がやけにてかてかとしていたことを思い出しました。ちょっと気合を入れておしゃれをしてきたんでしょうが、どうも裏目に出たようです。確かにこの世のものとは思えない柔らかな感触はしたのですが、それ以上にグロスのべたつきガキになってしまいました。
ファーストキスレモンの味なんていうロマンティックな言葉もありますが、エンドウさんのそれはとてもリアルでした。
その衝撃は誰にも伝えることができず、ひっそりと思い出の中にしまわれたのでした。

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