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思い出ストーリー

2023年01月27日 02:35

26歳だった僕は、
今からみなとみらい駅のカフェで待ち合わせをしている玲子さんと会えることを楽しみにしつつ、
半分はためらっていた。
玲子さんは54歳。
デジカフェで知り合って、顔写真とかは見ていたけれど、
普段絶対に知り合うことのない間柄。

話題は音楽の話で盛り上がれたけれど、実際に会うとなると世間の目や玲子さんからどう思われるか、など、
妙な緊張感ばかりが募った。

カフェの奥の方の席に座って10分ほどして、
ふくよかな体型で俯きがちに入ってきた女性と目が合った。
玲子さんだった。

店員さんにオーダーを済ませ、しばらくはギスギスした会話が続いた。
普段、デジカフェでは普通にコミュニケーションを取っているのに、やっぱり直に会うと勝手は違った。

リアルな世界での逢瀬ということで、ギスギスな時間は30分近く続き、「玲子さんによく思われていないかも」
と言うネガティブな心境にまで陥ってきた。

きっかけは、玲子さんのネイルだった。
薄い緑の綺麗な色をしていたと思う。

「わー、綺麗な色。」
と言って、ネイルについて触れて、「見てみる?」と手を差し出してくれたことが救いになった。
玲子さんの手を取ると、とても温かくて柔らかくて、
ネイルを見せてもらいながら、僕は両手で玲子さんの手を丁寧に支えた。

玲子さんも僕の手を優しく包んでくれて、
そこから先は、ずっとお互いの手を触れ合わせながら、たまには絡ませながら、
残りのコーヒーを飲んだ。

会話は先ほどより打ち解け、お互いのプライベートなこと、踏み込んだ話もできるようになった。

もっと玲子さんと二人で話がしたいと思って、
周囲に人がいるカフェは出ることにして、
海が近い公園に移動することにした。

ジョギングする人、子連れ、犬の散歩をしている人、
穏やかな現実を満喫する人たちとすれ違うたびに、
非現実を楽しもうとしている自分に背徳感が襲ってきた。
そしてすれ違う人の視線をいちいち意識した。

手は繋ぎっぱなし。
覚悟はしてきたけれど、やっぱり同年代の女性ではない人とのデートは、小心者には勇気がいる。
玲子さんは派手な身なりではないし、遊んでそうな人の外見でも無かったから、
僕が水商売の方と「待ち合わせ型」のサービスを楽しんでいるようにも見えない。
どう見ても、「出会い系」と察せられるカップルだったと思う。

それでも、玲子さんと船や海を見ながらベンチに座って話をしたり、距離を縮めたり、
笑いあった時間は楽しかった。


「行きます?」

とだけ、玲子さんに聞いた。
玲子さんは、恥ずかしそうに笑いながら「そうだね。」と答えてくれた。



ホテルの部屋の扉を閉じて、
まず抱き合った。
そして、すぐにキスをした。

すごく長い間、キスをしていたと思う。
ゆっくり、玲子さんは舌を絡ませてくれた。

大人の女性の感触。
舌も、抱き締めている背中も、唇も、全てが肉付きが良くて、柔らかい。
強く抱きしめると、玲子さんも僕の肩に手を回してくれた。

部屋の照明を落とし、1枚ずつ玲子さんの洋服を脱がせていくと、
玲子さんはとても濡れていることが分かった。

とても嬉しかった。
女性として、自分をパートナーとして喜んでくれている、期待してくれている、と感じられた。

濡れている部分をずっとずっと触りながら、キスは激しくなり、
次第に僕の指も、直に玲子さんの素肌を触るようになった。

ベッドに移動してからは、僕が玲子さんの上になり、
額から首、肩、ネイルが綺麗な指の先、身体の至る所を愛撫した。


僕は玲子さんに奉仕したかった。
そういう相手を求めていた。
対等に接してくれてはいても、目上の人と寝たかった。女性を労わりながら、身体を重ねたかった。

受け身でありながらも玲子さんはリードが上手く、
避妊の用意をしている僕を言葉にせず遮り、巧みに生身の僕を自分の中に導いた。

僕にとっては、それが生身での初めての経験だった。


繋がってからも僕たちはずっとキスをし続け、お互いのことを愛撫しあった。
色々な角度で玲子さんを刺激し、玲子さんも僕を刺激してくれた。

玲子さんがビクンと痙攣して、抱き合っていた腕が僕から離れベッドに投げ出された。

僕で果ててくれたんだ、と嬉しくなった。
メイクも崩れかけ、大人の女性ではなく素朴な女子の顔になった玲子さんが、「ありがとう」と微笑んでくれた。

玲子さんは、僕にもそのままで果ててくれていい、と言ってくれた。
色々考えはしたが、玲子さんの匂いと温かさで僕の頭も平静では無くなっており、
僕はそのまま玲子さんを頼り、玲子さんの中に放出させてもらった。
そして、そのまま玲子さんの髪に顔をうずめさせてもらった。

果てたあと、隣にいる女性を嫌悪する気持ちが嫌だった。
果てるまでに過ごしてきた時間を後悔することも嫌だった。

でも、玲子さんと果てた時は、恋人と過ごしている時のように、そのまま玲子さんを好きでいられた。
そのまましばらくの間、息が整ってからもしばらく、
ずっと玲子さんと抱き合っていた。


シャワーを浴びている間。
シャワーから帰ってきても、僕たちは愛し合った。
1度目より少し激し目に。
1度目より少し大胆に。
非日常の関係性を理由に、理性の少し先の、感情を大切に愛し合った。


3時間なんて、すぐに経った。

お互いの時間に戻らなくてはいけないので、身なりを正して靴を履いた。
扉を開ける前、多くのカップルがきっとそうしているように、
僕と玲子さんも、最後にもう一度キスをした。

ホテルから駅までは、何を話したかあまり覚えていないくらい、
二人での時間が濃かった。

もう一回お茶をしたかったけれど、
日常の時間を壊すわけにはいかないので、そのまま改札に向かった。

私服姿の上司と部下に見えるように。取引先の商談に見えるように。
周囲から変な目で見られないように、自然に別れるようにした。

軽くお辞儀して、玲子さんに手を振った。


「また会えますように。」

と思いながら。

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