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本当は、誰も死にたくない、東尋坊の茂幸雄さん

2016年04月02日 07:59

2016.3.31

「もう無理、死にたい」―こんな言葉を、私は何度も聞いてきました。彼らは本当に死にたいと思っているわけではない。でも死にたいと思うほど苦しいと感じている以上、いつ本当に死を選ぶかも分からない。家族や友人、身近な人がもし「死にたい」と思っていたら、私はどう関わればいいのだろうか。
 

その答えが知りたくて、今回取材を依頼したのがNPO法人「心に響く文集編集局」代表・茂幸雄さんです。自殺防止に取り組む同法人の活動拠点は、国定公園ながら自殺の名所としても有名な、福井県東尋坊


NPO法人「心に響く文集編集局」代表・茂幸雄さん


どの遺書にも「死にたくない」の文字ー自殺を選んだ人たちの悲痛な本音

 

茂さんが東尋坊で活動を始めたのは、警察官時代の経験がきっかけです。定年退職前、東尋坊を管轄する三国署が最後の赴任地となった茂さんは、赴任後、国定公園東尋坊が日本有数の「自殺の名所」になっているにも関わらず、国が東尋坊での自殺防止の対策を一切していないことに驚きました。
 

地元の国会議員たちと自殺対策について話しましたよ。でも当時、政治家たちは「自殺は本人の問題だから政治的にはどうしようもない」と考えていたんです。国が動かんなら私がやるしかない。そう思いました。

 

茂さんは、自殺現場に出動して遺体の検視にあたりました。また、自殺未遂警察保護された人たちの話を80人近く聞き、亡くなってしまった方たちの遺書も数多く読んできたそうです。
 

みんなね、遺書に「死にたくない」って書いているんですよ
「助けてくれ」って言うてるんですよ。
自殺を選ぶ人は、本当はもう一度再出発したいと思っている人たちばっかりなんですよ。

 

本当は死にたくなどない。
でも、
これ以上生きていけない。

自殺志願者の方たちは、想いに反して死を選ぶほど追い詰められているそうです。
 


東尋坊は、福井県坂井市三国町安島に位置する崖。

 

茂さんに声をかけられた人が自殺を繰り返さない理由

 

茂さんは、東尋坊の近くに6部屋あるアパートを所有しています。そこは、岩場で声をかけた人を一時的に保護するための「シェルター」。誰にも指図されず、文句も言われない自分の空間が必要と考える茂さんは、東尋坊で声をかけた人をシェルターに入れた後は、あまり干渉しないようにしているそうです。
 

しかし、自殺未遂をした人たちの中には、大量の睡眠薬や首を吊るためのロープを持っている人たちもいるそうです。東尋坊での自殺を止めることができても、目を離している間にまた自殺を図ることはないのでしょうか。
 

その心配は一切ないですよ。シェルター自殺を繰り返した人はこれまで一人もいません。ここに一時避難した人たちは、これまで全員元気になってシェルターを出ています。

 

自殺の再発が起きない理由は、シェルターに入る前の茂さんの関わりにありました。
 

最初にカウンセリングをするんですよ。カウンセリングというのは、ただ話を聞いて受容・共感することじゃない。相手の悩み事を解決するために私がお手伝いできることを探すためにやるんです。最も根本的な悩みの原因を解決することを“鬼退治”って言っていて、「よし、明日鬼退治に行くわ。どうや?」と聞くと、みんなあっさり「うん、お願いします」って言うんですよ(笑)。その後は、もう自殺しようとはしません。

 

悩みの根本解決に最も必要な武器は、法律社会保障に関する知識

 

悩みの種類は、借金などの金銭関係から家や学校・会社の人間関係まで人によって様々ですが、どんな「鬼」が相手でも茂さんは退治に成功してきました。
 

お金の問題は社会保障をしっかり利用したらええんです。有名なのは生活保護ですが、例えば、緊急一時支援金を知っていますか?お金に困っている人たちに、国がお金を貸してくれるんですよ。上限50万円、無担保・保証人なしで。借りられずに役所から追い返される人には私が同伴します。六本全書持って役所に行って「法律にはこう書いてあるけどなんで貸せないんですか」と問い詰めたら、あちら側は理由が言えずに貸してくれたりするんです。いい加減ですよね(笑)。

 

借金も同様に、法律を盾に解決するのだそうです。例えば、貸金業法の13条「過剰貸付等の禁止」では、支払い能力の乏しい者に過剰な額の貸し付けをすることを禁止しています。この法律抵触する場合、借りた側の借金を返す義務はなくなります。
 


茂さんが同伴するのは役所や金融機関だけではありません。根本的な悩みが学校や会社、家にあるならば、茂さんはその場所に乗り込んで関係者を集めてこんな話をされるそうです。
 

刑法202条「自殺関与・同意殺人罪」で、自殺教唆幇助するのは犯罪やて決まってるんです。その人を自殺したい状態まで追い込むことは犯罪なんやと話します。「自殺は本人の問題」なんて言うけど、その子を自殺に追い込んでいるのは誰なんやって話なんですよ。そして「この子がこんな状態になってんのに何しとるんや」と、関係者全員並べて談判しています(笑)。

 

東尋坊に来る人たちのあらゆる悩みを解決するために、憲法刑法教育基本法自殺対策基本法など、茂さんは法律社会保障制度を徹底的に勉強されています。
 

相手の同情心や感情に訴えかけたって鬼退治は成功しないですよ。日本は法治国家ですから、法律を頭に入れて闘わないかんのです。

 

自殺しようとする人の周りにいる人を適切に支援したい

 

これまで自殺精神病関連の支援といえば、当事者本人にばっかり焦点があたってきたんですけど、それ以上に当事者の周りにいる人を適切に支援していくことが必要だと最近感じているんです。

 

家族をはじめ、周りの人たちも当事者にどう関わっていいのか分からず、とても苦しんでいる姿を茂さんは見てこられました。どうにかしてあげたいという思いが空回り、皮肉にも余計相手を追い詰めるケース少なくないそうです。
 

負けるな、頑張れなんて言っても、もう限界が来ているから頑張れるわけないんですよ。

本人の気持ちを抜きにして、
自分の常識や世間体を優先して一生懸命本人を変えようとされたら、
本人にとってはものすごい苦痛なんですから。
あと、どうにかしてあげたいからって精神科に連れていく人もいるけど、
5分の診察で薬しか出さんような病院に行ったって、
その子を苦しめる根本原因なんて解決されずに薬漬けにされるだけですよ。

本当に必要なのは、今いる環境を調整すること、
そして本人の無価値感を変えてあげることです。

 

環境調整のためにまず必要なのは「相手の心の中の声を聴くこと」だそうです。一見簡単そうに思えても、話の聴き方を間違えれば、相手は心を閉ざして本音など話してくれなくなります。
 

「どんなことがあったの?」「なぜこんなことになったの?」
と、起きている事実と原因ばっかり聞く人が多いんですけど、
それじゃ本音は聞けないですよ。
相手の本音が聞きたいなら「あなたはどう思ったの?」と心の中を聴いてあげないと。悲しかった、腹が立った、恥ずかしかった、苦しかった、そんな感情を聴いてやらないかんのです。


自分の気持ちを聞いてくれる相手に、人は心を開きます。
一方で、気持ちを聴こうとせず一方的に意見を押し付けたり、ピントのずれた解決策を提示したりしても、相手との心の距離は開くばかり。
また、聴く「態度」も重要になります。
 

まるで自分が先生かのように上から目線で話す人がいますが、
それじゃ相手は絶対に話さないですよ。
自分じゃなくて相手が先生なんですよ。
死にたい理由は人によって違って、その人の理由は当人にしか分からんのやから「この先生に教えてもらおう」って気持ちで聞くんです。
そうやって、相手と同じ目線で相手と同じ景色を見るんです。景色を共有できると、この人を取り巻く悪いものが見えますから。そしたら環境調整ができるんです。学校でも職場でも、一緒に鬼退治しに行けるんですよ。そこまでやっている人は少ないですけど、絶対必要なんですよ。

 
また、多くの自殺者が持つ「自分には生きる価値がない」という無価値感から本人を解放するために必要なのは「相手の良いところを見つけて伝える」と茂さんはおっしゃいます。
 

死のうとした人に同伴してその人の職場に行くと、会社の人が言ったのは「だってこの人はこれが駄目で」と相手の悪いことばかり。失敗に目をつけ、欠点ばかり伝えて相手を抑え込んでいる。その状況にいて自分には価値があると思い続けるのは難しいですよ。相手の長所を見ようとすれば必ず見えてきますから、積極的に伝えてあげてください。それが自信を取り戻すきっかけになるんです。

 

人の長所を見つけることが苦手な人には、茂さんはこんな質問を投げかけます。
 

人が死んでしまったらお葬式するでしょ。
「あなたが葬式で弔辞を読めと言われたら、
どんな弔辞読みますか?」
と聞くんです。弔辞って「生前のこの子はこんな子で」って、その人の良いところしか言わないでしょ。
弔辞を読むつもりで考えてもらったら出る。

「その言葉をなんで生きているときに言ってあげんのや」

と言うと、ハッとなるんですね。

 

その言葉をかけるのが本当に弔辞の時であってはいけない。

相手がいなくなってから後悔することがないよう、
今すぐでも実践できるこれらの声かけは意識的に実践していきたいものです。

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