金曜日の良さが分からない

今日(っつっても日付が変わる前)


いつもと変わらぬ洗い物の量

なのに

いつにも増してお客さんは帰らない


料理で稼ぐ勢いは止まり

ダラダラと飲み物が出る

お客さんは帰らない



時計の針は11時半に差し掛かろうかというところ

照明を落とされた店内

誰一人に口には出さないが

体から滲み出ている疲労感



駅

いつもの駅

いつもと違うのは

新宿駅で人身事故が起きて

電車が止まっていること



仕事で疲れているのか

遊びで疲れているのか

座席に不細工に歪んだ顔が並ぶ


例えて言うなら

残念なオアシズと残念なバナナマン


その油断100％のヒクヒクした鼻の穴

人差し指と中指で釣り上げてやろうか


その魚みたいにポカンと空いた口の中

レモンで漬け込んだ梅干しを放り込んでやろうか


汗と化粧と酒の香り

油脂でコーティングされた人間で賑わう車内

快速だったらもっと鮨詰めになってるんだろうな




電車を降りて、階段を下りる

自分は行きたい方向に手を差し出しながら進むようにしている

勿論、極力行き交う人の邪魔になりにくいようにだ

大体の人は進路ルートをずらしてくれる

ありがたい


自分は壁に沿って歩く

何人かとすれ違う


スーツ姿であろう人間が正面にいる気がする

手を壁側に差し出し、尚も壁側に幅寄せして歩く

ぼんやりとスーツ姿の顔にあたる部分が赤く染まっているのが視野に入る

次の瞬間


ダンッ


ひらりと身をかわす僕の脳裏に

床を強く踏んでバランスを崩す光景が浮かぶ

くだらないので振り返りもせず歩く


改札を抜けると人がチラホラと固まっているのが見える

帰る途中のコンビニ前には若い連中が立ち話をしてる

いつもとは少し違う光景


あぁ、金曜日か。


いつもよりも帰りが遅いのも手伝って

より金曜日らしさが出ているので

何となく気がついた


飲み物のコーナー

お水、お茶、紅茶は品薄

500mlの野菜ジュースが列を作っているのがやけに目立つ


溜め息を１つ

野菜ジュースとめぼしい物を何点かレジへ持っていく


名札には キム の文字

そこらの若い日本人より好感の持てる接客にも思える

美男スマイルに見送られコンビニを後にする

店の前にはまだ立ち話を続ける若者達




小道に入り

野菜ジュースを一気に飲み干す


ぷはぁ……んまぃ。


酒を受け付けない体の五臓六腑に

至福と甘美が染み渡る


飲み干した紙パックを手提げ袋に戻す

手提げ袋の中身が見えて

脳内で少しだけニヤリとする


帰ったら飲み直すか


そんな戯れ言をポツリと浮かべ

子供のおつまみと子供のカクテルをブラブラさせる




ふと気がつく




これではまるで

金曜日の良さが分からない

ではなくて

金曜日を楽しめる奴が羨ましい

だな




ま


いっか