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実世界への移住

2010年12月11日 03:44

たぶん光ケーブルの工事だとおもうんだけど、ぼくの窓辺でヘルメットのおじさまが、両手のひらに顎をのっけてぼくの食事を見てるの。

ぼくなんかフルトヴェングラーアナログレコードっていう豪奢の中でやわらかいもも肉の咀嚼中だったわけで、おじさまの無粋な油顔なんかどうでもいいわけ

で、パリパリバタールとヴォルドーで一時の憩いを完遂してるぼくに対して、その窓辺のおじさま、事もあろうにノックしてくんの。

は?そんなの想定してないから、そおのう、おととい来やがれみたいな社会性のないことはせずに、もちろんニッコリする。ぼくの長いまつげが視界をじゃっかん剪断して、ちょっと眠気を感じたりしはじめた、そのぼくの横で、トーマスがふふん、っていった。

やだなあ。変なことして目下の相手をおこらせたりしないでよね。

だからぼくの掌から、直接なにかをわたすような方向でね。で、雪がふりはじめた外にちょっとびっくりして、凝視してるおじさまに目くばせ。

テーブルの上の、ちょっと憂いのただようグラスやボトルを指さしてみたり。口あけて大袈裟にわらってみたり。

トーマスが椅子をとびおり、窓におどりかかった。やめてよトーマス

おじさまがフっと風にかききえ、ぼくはあれくるうトーマスキャベツの輪切りをなげてあげるの。

ものすごく冷酷なトーマスの目がぼくの鼻腔ふきんを射ぬき、ぼくはしかたなく椅子をはなれて、絨毯をゆっくりと横ぎり、おじさまがぼくを凝視してた89階の窓を、あけはなってみたの。

トーマスだった膜が、うずまく夕刻の雲にのぼってゆくのを、ぼくは血のようなソースで顔を真っ赤によごして見やる。

歯。軋。り。

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