散文

ああ、空に溶けていくよ、と。わたしは君に一言漏らす。ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ君は、粘着いたその快楽に身をよろめかせて耐えている。朦朧としたいしきの離れを感じながら、わたしに冷えた視線だけを送る君というそんざいは、この場所では無情な程にうつくしい。わたしはそんな君に何らかの言葉を送りたいと想い、出来得るだけのあこがれを抱いて、わたしの溶けゆくこころをはたらかせようとする。けれどわたしがわたしに残した軽蔑の色というものは、血溜りのように色濃く染み出ていて、余りにもそれは横暴というもので、わたしは君のあいした水溜りの、不鮮明さを頭に過ぎらせる。君は彼ともわたしとも違う、真っ直ぐに濁ることが出来る人だ。わたしは、苦味と共に君を想う。そうしてごくり、と唾を呑み込んで、ああ、空がきれいだよ、とわたしはわたしに漏らした。