あこがれ66　意思

１１月最初の週末は先月２回の旅行で留守にした為、日曜午前の悠人君の特訓以外ずっと美咲と居る事にしました。
土曜日は７時に起こされ、夜９時に送るまで１４時間一緒。
日曜日は１２時半からずっと一緒です。
CDを聴き、話し、食べ、セックスをする。
只それだけなのに、一日中嬉しそうな、楽しそうなこぼれる笑顔。
片時も離すまいとする手。
必ず何処かを掴む手。
逃げてしまうのを妨げる手。

こんなにも若さは一途になれるのです。
いつの間にかその大切な物をみんな無くしてしまう。
しかし、その相手の私は酷い男なのに。
嫌悪感と罪悪感が一杯の、意思の弱い男。
その内大きな罰が来ます、きっと。
少なくとも第一グループに、新しいメンバーが入る事は止そう。
なるべく会うのを避け、リストをゼロにしよう。
と何時も思ってはいるのですが・・・。

「どうしたの？」
「もう４５分経ったわよ」
ごめん、と答えて採点に掛かります。
英語は、・　・　・　何と満点。
「凄いぞ美咲、パーフェクト」　と言って大げさに褒めます。
「うわー、初めてね、１００点」　と大喜び。
他の教科も殆ど８０か９０点取れる様になっています。

「２ヶ月近く早かったね。　今日３年をクリアした。　来週から入試のみの目標に変える」
「はい、せんせい」
ここまでも、全て英語での会話です。
「今夜は褒美に私が、一番大切な美咲のために作る」
「食べたい物は？」
「貴方のモノ以外には無いので、お任せします」
「よし、それならチーズたっぷりのオニオンスープと特製ポークチｬップでどう？」
「美味しそう」
「このポークチャップ、１０年以上前最初に作った記念の料理で滅多に作らない」

玉ねぎをバターでいためる事から始めます。
冷凍して置いた、料理で残った鶏がらを解凍し、コンソメ作りも始め、パイナップルは無いので、缶詰で我慢。
トマトを潰すと煮てワインをくわえ、一度煮立てすぐに弱火に。
豚肉のロースを２枚３センチにカットし筋も切り、塩とコショウで下ごしらえ。
ポテトの皮を剥き小さくカット、水を張った鍋に入れ、煮たった所に塩とブイヨン。
肉をバターで焼き、作ったソースも加え、スープにはチーズを多目に入れ味付け。
肉の上に肉と一緒に焼いたパイナップルを載せます。
皿に盛り付け、ハッシュドポテトを添え、スープをグラタン皿に入れたのをオーブンから出し、サラダと一緒に運び、完成。

ナイフの切れ味は文句なし。
美咲が一口、頬張ります。
「何でこんなに柔らかくなるの。　それにこのパイナップル美味しい」
「ポテトもソースにピッタリ」
「このオニオングラタン、あちこちのレストランで食べているけど、こんなに美味しいスープ初めて」
「何故コックに成らなかったの？」
「ありがとう」
「作るより食べる方が好きなーだし、作りながら食べてしまう」
「こんな素敵なご褒美、何より嬉しい」
「大学に受かったら、三日三晩作って上げる」
「満願全席」
「それって、あの中国の、伝説の、あの料理の？」
「そう、あれ」
「よーし、絶対受かる、絶対食べてやる」
「そうだ、その意気」


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