『コウノドリ』を観る 6

親近感覚える患者に
報いることができず
自分自身の未熟さに
臍(ほぞ)を噛む下屋
力はない知識もない
身を焦がす歯痒さに
新たな扉を押し開く















人の命を扱う医療現場の厳しさ、それは私には分からない。

ただ、劇中での下屋の未熟さ故の歯痒さは、私にも覚えがある。



















埼玉の西武ドーム球場のほど近くに“西武園ゆうえんち”がある。
そのアーケードの一郭に似顔絵ブースがあった。

似顔絵会社で押さえていた箱で、私もよくここで似顔絵を描いた。



西武園ゆうえんちは、すり鉢状になっていて、すり鉢の底が“アイドル共和国”って、イベントの舞台会場。

似顔絵のブースは、それを背にしたすり鉢のへりの上のアーケードの端。

普段はそれほど忙しくもないが、夏休みに“アイドル共和国”で、イベントとかあったりすると、コレが意外と忙しい。

若い女の子とかに多いのが、アイドル写真持ってきて、それと自分との似顔絵、カップルで描いて欲しいってお客様。

当然、お代も2人分で私も嬉しい。
だが、時間も又、2倍かかるのだ。



ある日、プロマイドでのカップル似顔絵、コレが大いに受けたことがあった。

西武園ゆうえんちの似顔絵ブースは1人現場。当時の私は、決して遅筆ではなかったが、写真での似顔絵、コレはやや神経を使い、それなりに時間がかかってしまう。

気がつけば、アレよ、アレよという間に順番待ちの人が長蛇の列になってしまった。





ところで、遊園地などの遊興施設、意外と障害を持たれた方々も来園されているものだ。

障害によっては、殆んどの遊技は無理だろうに、来られる方々は皆、とても楽しげにされている。



そこで、似顔絵の出番である。



似顔絵は、健常者も障害があったとしても、どんな人でも分け隔てなく愉しんで頂ける。

障害で乗り物が無理な方などは、似顔絵こそがお客様に応えられる存在だと思っていた。





その日の西武園ゆうえんちでも、似顔絵待ちの長蛇の列の後の方、車椅子の青年が列に加わるのが、視界の隅に見てとれた。

アイドル共和国に来たアイドルの誰かのファンなのだろう。

私の持論から云えば、アイドル以外に彼がここで楽しめるのは、似顔絵こそが相応しい！

だが、何十人もすっ飛ばして彼を先に描くのは、逆差別にはなりはしないか？

次の順番のお客様だって、ソコソコは待っている訳で、そちらに失礼にならないか？

車椅子の彼を優先しようとして、途中にもっと優先すべきお客様が居たら、その時はどうする？








1枚似顔絵を描き終わるその度に、次のお客様に断りを入れるべきか否か、逡順を繰り返した。

断るのを思いとどまる度に、次の似顔絵も又、写真でカップル (O.O;)！

おぉ～い！！ 又、時間が……！！！

心の中で焦りがどんどんと膨れ、照りつける夏の陽射しとは別物の汗が、掌にじっとりと滲む。

そうこうするうちに、何人目かの似顔絵を描いている私の視界の隅で、車椅子が列からそっと離れてゆくのが、チラリと見えた。















俺が、もっと速く描ければ……！！！















目の前のお客様の顔を描きつつ、接客の笑顔は保ちながら、自分の未熟さ、不甲斐なさに、心の中で臍(ほぞ)を噛む。

ふと、左手を膝に置き、お客様には見えない机の下、思いっきり握りしめた拳の中で爪が肉に深く喰いこむ。

口の中、錆びた鉄の味が拡がった。





















その日描いた似顔絵は、100人には届かなかった。

あの悔しさは、忘れられない。







後年、似顔絵の集団で頭を張ったこともあったが、その頃には1日の営業時間内に、100人分の似顔絵を描く力は付けていた。



今は腱鞘炎で筆を折っているが、やるだけのことはやってきた。

只、今でもあの時に全盛期の力があったらと、ふと思うことはある。









お題は………なんか、もうｲｲやね。