どうしてそこに...?

病室の入口に
立っていたのは
......父だった、





どうして
ここまで歩いて
.......来たの?

田んぼの
間のあの道を
......歩いて?

生い茂る
草に埋もれかけた
用水の、

流れていたのか...

草の影を
映し、夏の空と
雲を映して、

陽射しに
やつれた柳の葉の
しなだれて、

微風に
そよめく川辺りの
道を...

とぼとぼと
歩く老人の
影...

田んぼを
抜けてゆく、あの
道を、

歩いて来たの？

病室の入口に
立つ父、
全てを見とり....

病室に居る
誰よりも、土気色に
黄ばんだ兄の顔、

検査入院の
一月も、そこらも
かかるものではない、
手の
施し様もなく、
寝そべる兄に、

術後間もない
父には
伏せていた事の、

読み取り...

旅先に
買い揃えたBadgeの
きらめくチロリアンハット
を脱いで
窓辺の椅子に
汗を拭き...

家に居るきりの人の
肌の蒼白い顔の汗ばみ
息を整え、かぼそく、

驚きと同時に
そこに居る事の
不思議と予感していた様な
夏草に
埋もれかけた川の
水の...

草の影を
映し、夏の空を
現して...

流れていたのか、
流れを留めていたのか、

病室の入口に
立っていた....父