やっぱナシ

梨って非常に贅沢な果物のような気がする。

第一にほとんどが水分で構成されている事。
水気をたっぷり含んだ梨は腹持ちが悪く、この戦中派のカロリー至上主義者たるオレにとっては食べ物としての要件を満たしておらず、味覚のみを満足させる嗜好品としか思えない。

第二に皮をむかなければ食べられない事。
たいがいオレはリンゴを食べる時には皮をむかない。
なぜならむけばそれだけリンゴの体積が減るからである。
そこまでして量の確保に努めるオレに向かって梨は皮をむけと言う。

そしてむいてしまえば梨は皿に盛らずには済まなくなり、あまつさえ皿に姫フォークなんて添えた日には、おお、まるで中産階級のお茶菓子のような姿になるではないか。

いざとなれば丸かじりという食事スタイルも許容するリンゴのざっくばらんさに比べれば、なんて形式張った、よそ行き、の果物であろうか。

そんなブルジョワジーな、そしてブルジョワジーな姿に何の疑問も抱かずに悠然とそこに存在し続ける梨にオレは苛立ちを隠せない。
だから買うのであれば梨よりリンゴなのである。


しかし本日、梨はオレにまた違った側面を見せるのであった。

「４個で３８０円」

なんという下野。
隣のリンゴが一個１２０円でたたずんでいるのに、である。
まるで身分がとても違う女性との恋のために王位を捨てたヘンリー王子のようではないか。
そのいじらしさと慎ましさに心を打たれない人間がいようか。

オレは深く感じ入り、そして財布に５００円玉があるのを確認したのでその４つの梨をそっとカゴにしまう。

当時のイギリス国民のように優しい気持ちで。