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情事No.25

2018年02月04日 11:33

情事No.25




あと、ぼくらの課題は、いつ子どもを持つか、ということだった。

子どもを作ることに関していえば、三〇を目前に控えた年、割と真剣にそれに関して話し合ったことがある。子どもは欲しい。いつかは。でも、いまはその時じゃない。

たがいにやっと一人前の社会人になって、仕事の面白みが分かってきたところだった。もし子どもができたなら、ぼくだってちゃんと育児をやろうと思っていたから、子育ては仕事とのバーターであることは意識していた。

だからこそ、子どもはまだ、今しばらくは先でいいんじゃないか、とぼくたちは結論した。
なっちゃんが35歳になる前に産む。
それぐらいがぼくらが話し合って決めていた、最低のラインだった。

そのせいもあると思うのだけど、ぼくらのsexの回数は徐々に減っていった。
おそらく、回数で言えば交際している20代の半ば以降の数年間が、一番していたと思う。
そのピークを過ぎたところで、ぼくらは結婚した。
ローンを組んで郊外マンションを買い、そこでの生活が始まり。

ぼくの研究所は北関東の奥地に合ったので、週に何度かはそちらに借りているアパートに泊まることになり。
週末に東京に戻ってくると、なっちゃん青山や麻布の洒落たレストラン外食し、お酒を飲んで、家に帰った。そこからsexになだれ込む回数が徐々に減り、やがて、ぼくらも多くの夫婦がそうであるようなセックスレスになっていった。

その後、あの事件が起こったんだった。


セックスレスの定義を、全くのゼロと捉えるならぼくらはセックスレスではなかった。半年に一度くらいそういう時が訪れて、ぼくらはゆっくりと交わった。

若い時のように情熱があるわけでも、技巧を尽くすわけでもなかったが、互いの性欲がいい感じに高まり、そのタイミングが合った時、ぼくらは自然とSEXをした。

そんなことが二年ほど続いたある日、ベッドの中でなっちゃんの身体が硬くなっているのを感じた。

ゆっくりとパジャマを脱がし、小ぶりのバストを口に含んだ。乳首はいつものように固くすぼまり、ぼくの舌に反応していた。それに答える彼女の小さな声もいつもの通りだった。
でも、ショーツの中に手を入れようとした時、彼女がぼくの手を抑えた。

「待って…」

と。


どうして、と聞きたいぼくに、「…まだなの」と、聞き取れないほど小さな声で彼女は言った。
ぼくはショーツから手を出し、コットンのその薄布越しに彼女に触れた。
そこは熱を持っていた。

「まだ…?」

意味の分からなかったぼくは、ついデリカシーのない質問をした。
彼女と、日常的に触れ合っていれば、その意味はきっとすぐに分かったろう。あれから時のたったいまならそう思える。
それにぼくにはその時、判断を誤る秘密もあった。

「ゴメン…小田桐くん」


なっちゃんはぼくに背を向けると、ベッドの中で膝を抱えるように小さくなった。

「どうしたの?大丈夫なっちゃん?」

ぼくはその肩に手を置き、彼女に問うた。
どうしてあの時、あんな風に問い詰めてしまったのだろう。
どうしてもっと、彼女を穏やかに包み込めなかったのだろう。

「………濡れなくなっちゃったよ……」


彼女の痩せた背中が、そう呟いた。

濡れない?
え、そうなの?
ぼくはその時頭の回路がつながらなかった。
ご馳走をみればよだれが出るように。
ジェットコースターを乗れば冷や汗が出るように。
SEXをすれば、女性は濡れて、男性は勃起するものだと思って疑わなかった。

それなのに。

濡れない、とはどういうことだ?

大丈夫…よ。ぼくが焦りすぎたんだよ。もう一度最初から、ゆっくりやれば大丈夫よ」


そう言ったぼくの言葉に、彼女は少し苛立ったように投げやりに言った。


「ダメなの。私、分かるの」


あぁ。
その言葉に、ぼくは何も考えずに反応してしまった。
今にして思えば、あの時もっと彼女をいたわったら。あの時もっと、妻を抱きしめられたら。
でもダメだったろう。


そこでぼくがどんなにやさしく彼女を包み込もうと、彼女はきっとぼくに心を開けなかったろう。ぼくへの疑いの心を解きほぐすことなんて、できなかったろう。
全ては、後の祭りなのだから。

小田桐くん、誰かと付き合ってる?」


胃の縁が、キューっとすぼまった。
頭が真っ白になって、口の中がカラカラになった。
そして、そんな日が来ることを、心の底で何度も何度も想像してきた。頭の中で安全装置のスイッチが入り、心と身体は切り離された。
ぼくの手は、コンマ数秒凍り、そしてすぐに別の回路が元どおりの仕草を続けさせた。

なっちゃんの肩の素肌をそっと撫でながら、ぼくは言った。

「誰とも付き合ってなんかないよ」


こんな時、『何故そういうか』なんて言ってはいけない。まず否定し、相手の心の不審を取り払うべきだ。

「そんなこと、心配してたの?」

肩をそっと撫でながら、彼女の固まった身体と心を懸命にほぐそうとしていた。


「誰とも、付き合ってなんか、いないよ」

ぼくのペニスは一気に硬さを失っていた。
なっちゃんの白い背中は沈黙したままだった。
ぼくはその肩に手を置いて、彼女が口を開いてくれるのを待った。
永遠、かと思った。
その時間が。

「本当に?」

そして、やっと、彼女は言葉を告げた。

「本当だよ」

ぼくもやさしく言った。
彼女の身体から、力が抜けた気がした。
こちらにしなだれかかってきたなっちゃんの細い身体を受け止めた。
あぁ、最悪の場面を脱した、とその時思った。

「でも濡れないの」

「うん…。分かった。疲れてるんだよ、きっと。なっちゃんこのところ忙しかったもの」

「しばらく、しなくても…平気?」


平気も何も、ぼくらは全然、していなかった。
でもそんな皮肉を言っている場合ではない。

「うん」

とぼくは言った。「なっちゃん大丈夫になるまで、待てるよ」


心の底から、そう言えた。
あの女とは手を切ろう、とその時思った。

初めての浮気だった。
ぼくは女性のいる飲み屋に行くことはないし、風俗に行くこともない。女性と接することにお金をかける価値を感じないのだ。

だから多くの男性がカジュアルに楽しむ、お金を払っての女性との性行為みたいなことも未経験だった。

かといって、性に興味が全くないわけではない。
なっちゃん結婚する前はそれなりに女性お付き合いもしたし、アダルトビデオだって結構見る。

それに、これはなっちゃんには黙っているが、海外学会などに行くと、不思議と集ってくる研究者同士のワンナイト・アフェアみたいなものもあった。
そういう意味では同じ研究者同士、話も合うし、互いにその地では異邦人ということも手伝って、気軽にベッドを共にすることがしばしばあった。

絵里子さんと寝たのは、そんなカジュアルな流れだった。


ただ、その場限りの海外学会ではなく、普段の勤務先の北関東の研究所近くのマンション、というところが問題だったわけだけど。


彼女はぼくより一つ年上の、既婚者だった。
ウチの研究所に働きにきてくれている派遣さんだ。我々社会不適合者の集まりは、研究以外のことは極端に事務処理能力が落ちる。そこを細かく救ってくれる、ウチの研究員の頼りになるお姉さんだった。

そんな絵里子さんが、ぼくに好意を持っていたのを知ったのは、研究所のサマーパーティの日のことだった。互いにほろ酔いで歩く道すがら、彼女はその気持ちをぼくに打ち明けてくれたのだった。

といっても、ウチの大学の学部生達がやっているような恋のさや当て的な熱いものではなく、今にして思えばそれは、SEXの相手を探す言い訳みたいなものだった。
絵里子さんはその日のうちにぼくとベッドに入ることになった。

最初はキチンとラブホテルを使っていたが、途中から徐々にぼくのマンションに来るようになっていった。

マズいな、と思った。

なっちゃんのことが頭をよぎる。
真面目な彼女にコレがバレたらかなり大変なことになるだろう、と思った。

でもなりより、ぼくは(さらには恐らく絵里子さんも)相手にさほど興味がなどなかったのだ。ぼくたちは純然たるセックスフレンドとして、インスタント快楽をつかの間、味わえればそれで良かったのだった。いわば、相手のいるマスターベーションみたいなものだ。


ただ、それが事実だとしても、なっちゃんにそれが受け入れられるわけがない。それはよく分かっていた。だから深入りする前にキチンと手を切らなくてはと、ぼくはずっと考えていた。

しかしながらこういう関係が往々にしてそうなるように、我々はぐずぐずと別れるきっかけを見つけられないでいた。






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