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情事No.22

2018年01月26日 08:06

情事No.22




私と知って声をかけてきたのか。東京ならいざ知らず、こんな地方でそんなことがあるのかと少し驚いた。

「こんなところで僕を知っている人がいるなんて」

「私、東京からなんです」

「それでか」

「見てますよ、路地エクスプレス


それは私が出演している深夜のショートドラマだ。関東ローカルでしか放送していない。
古い風情の残る東京下町清澄白河のバァを舞台にしたハードボイルド人情話という不思議な手触りのドラマだった。
そこでの私の役どころは、店の常連である商店街古道具屋のオヤジだった。でも店は片手間で、官能小説を書き飛ばしてあら稼ぎしている不良中年。なかなかユニークキャラクターだ。

「毎回台本をもらうたびにヤバいセリフが並んでいて、放送できるのかヒヤヒヤしてるんですよ」


私のようなつまらない俳優でも、ファンサービスは必要だろう、思っていた。


「こう言ってはなんですけど、ーーさんがとても楽しそうに演じておられる感じがして、私大好きなんです」

「確かに。アレは当て書きでしてね、」

「当て書き?」

劇作家が演者を決めて書くことです。あのシナリオライターはぼくが小劇団にいた頃からの付き合いでね、ぼくが変態であることをよく知ってるんですよ」

変態って」と言って女は笑ってくれた。


自分で言うのもなんだが、私は不細工な顔つきをしている。ひしゃげた丸顔にゴツい眼鏡。昔のアニメに出てくる浪人生みたいな風貌だ。
もっともその風貌のおかげで、不思議な人物達の役柄が途切れることなくやってくる。
また、この朴訥な喋り方も気に入られ、最近ではナレーションの仕事も増えてきた。

「こんな見た目で変態だなんて、ヒネリがなさすぎるって仲間は笑うんですけどね」
ふふ、と、小さく女は笑った。

「でもいいじゃないですか。大人になれば誰もがみんな、少しずつ変な部分を隠しもってますからね」


その言葉に初めて顔を上げて、この闖入者(ちんにゅうしゃ)の顔を見た。目を、覗き込んだ。その奥に、かすかな光を見た。

はじめまして」と私は言った。「ーーと申します」

女は一拍戸惑ってから、微笑を取り戻し、返事を返した。「小田桐、と申します。突然お邪魔しまして申し訳ありません」

いい女だな、と思った。
見た目でなく。
そのこざっぱりとした物言いが、だ。

東京のあるメーカー勤務で、ここへは出張できていること。学会に出席した高名な大学教授接待を、今まで下の階の懐石料理屋でしていたこと。その席がお開きとなり、このホテルにある部屋に戻る前にここで一杯、飲もうと思っていた。
続く数分の会話の中で、女はそんなことを喋った。


「何を飲んでいらっしゃるんですか?」
こちらのグラスを見て、女が言う。

ズブロッカ

「どんなお酒?」

お酒は好き?」質問に、質問で答えた。あまり褒められたマナーではない。

「ーー好きです」


面と向かってそう答えられる度胸も良い。
私は黙ってグラスを進めた。

「なら、飲んでごらん」

面食らった顔の女。
私は何も言わず、黙ってその表情を見た。
誘いに応じるなら良し。
応じないなら、またひとりでしっとり飲める。
女はそのロックグラスを手に取り、そっと口へ運んだ。
飲む前に少しだけ、匂いをかぐ。

ん、という表情。

桜餅。思い出すでしょう?」

女の顔が華やぐ。


彼女はグラスを傾けて、氷の間から流れてくるウオッカを口に含んだ。
40度と、それなりのアルコール度数の高さだが、少し溶けかかった氷のおかげで、そんなにキツくはないはずだ。

女はグラスをカウンターを置いた。アイラドキッチンの向こう側にいたバァテンダーを呼ぶと、

「私にも、ズブロッカを」

とオーダーした。



そして私を見て微笑し、

「新しいお酒を覚えました」

と言った。

その表情。心の隙間にスッと入り込む笑顔。鈍い瞳のきらめき。
ヤバいな。
ヤバい女かもしれないな、と思った。


やがて背の低いロックグラスにズブロッカが二杯注がれてやって来た。私も薄くなってしまった酒を交換してもらったのだ。
私たちはどちらともなくグラスを合わせ、小さく乾杯した。

口に含むと、途端に香る強い牧草の香り。それが何故だか日本人には、柏の葉に包まれた桜餅の香りを思い起こさせる。

「美味しい…」

酒をゆっくり味わいながら、女がそう言う。

小田桐さん、でしたよね?」


私は女の名を呼んでみた。
女はこちらを見た。
まどろっこしいのは嫌だな、と。

「後で、部屋に来なさい。私の」


声のトーンが変わる。
自分でもそれがわかる。

「え?」


女は戸惑う。
攻め時に攻めるのが肝腎だ。

「私は変態だと言ったね。あれは例えでもなんでもないんだよ。SMで言えばS。そう呼ばれることに興味はないけれどね。
もし君が、そういうことに興味があるなら、後で私の部屋に来なさい。14階の1405だ」


そこまで言って、私はグラスを仰いだ。
カラカラと涼しげな音を立てて、氷が鳴った。
女は、何かに貫かれたように押し黙っていた。

私はひとりで部屋に戻った。


ドアがノックされた時、私は部屋の中で買い置きしておいた栗焼酎ボトルを開けるところだった。
四国の栗焼酎札幌で手に入る幸運に、思わず買い求めた品だ。フロントに届けてもらった氷とグラス。封を切ると、かすかに香る甘い栗の香り。
それに目を細めた時、控えめなノックの音がした。

ドアまで歩き、のぞき窓を確認することもなく、扉を開けた。

女が、立っていた。
片脚に重心をかけ、わずかに傾いだ立ち姿。
笑むでもなく、泣くでもなく。
瞳だけを静かにきらめかせながら、唇を噛みしめていた。
良い雰囲気だった。


部屋に招き入れる。
ベッドサイドのライティングテーブルに、彼女を座らせる。

「飲むか?」

と、栗焼酎を顎でしゃくる。


「何を飲んでいらっしゃるの?」

焼酎。和のスピリッツだ」

「何の香りかしら? 芋じゃないですよね?」

「栗」


あぁ、と女は言う。

「いただきます」


ロックグラスに三分の一。
透明な栗焼酎をふたつ、注ぐ。
私はベッドの縁に腰かけた。

からん、と氷を一度鳴らして乾杯の合図とした。
ふたりでキツい焼酎を口に含む。
鼻の奥に抜けて行く、栗のほのかな香り。
そして喉を下る冷えた炎。

「大胆にして繊細。芳醇にして純粋。そう思わないか?」

部屋の外。
窓の向こうは札幌の夜の街が見える。

「ーー思います」

素直な返事が帰ってきた。

SEXと同じだ。矛盾整合を同時に孕(はら)み、かつ燃え、かつ冷める」

「はい」


女の目を見る。
女もまた、こちらの目を見返す。

「尋ねるがーー」ひと呼吸。「何しに来た?」

好奇心を、」女が目線を逸らす。「抑えきれませんでした」



そして女はもう一杯、杯を煽ると、透明な酒を飲み干して、言った。

「しばらくの間、何人かの人に抱かれて来ました。
最初は逝くのが怖くて、逝かされる直前に身を離したりもしました。
でも、逝くことにも慣れました。
そのうち何かが見つかると思ったんです」

「気取るな。性欲に負けたのだろう?」
女はいま一度、唇を噛む。「ーーはい。それもまた、その通りです」


「そして?」

「そして何も、見つかりませんでした。自分が淫乱だ、ということ以外」

ヤバいな。
自分の中で信号が灯る。
深入りすると危ない。
分かっていつつも、返事をしてしまう。

「それが分かれば、上等だ」

私も杯を煽る。
一息に、残りの酒を喉に流した。
そしてクロゼットからネクタイを一本取り出した。
それを、椅子に腰掛ける女の顔に巻きつけ、目隠しをする。

「上着を脱ぎなさい」

私は女の目を見て言った。

「…はい」

女が答える。
そして、夜が更けていった。



女の秘部はすっかり濡れていた。
視界を奪われ、股を開かされ、股間の匂いを嗅がれる。
それだけで女は、どうしようもないくらい濡れてしまっていた。

腰が、もぞもぞとうごめく。

「こうされるだけで、感じてしまうんだな?」

「……はい」

なおも、女の身体には触れずに。

「もう、濡れているな?」

「…たぶん…」

「じらされて…感度が上がってくる…そうだな?」

「……恥ずかしいです」

私は両手を伸ばすと、大股開きの女の股間の、大腿骨のくぼみに左右の親指をあてがった。

「やっ…!」

女が身じろぎするのも構わず、ショーツの左右に添えた親指に力を込め、下着の中の花びらをおしひらく。

「ひっ…」

女は動揺し、身を硬くする。
初めて触れられた肌は秘部の両脇。
初めて与えられた刺激は下着越しの性器の開帳。
女のなかで、アドレナリンがドッとあふれ、理性が崩れ始める音が聞こえる。







………

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