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Moment No.29

2017年11月07日 09:10

Moment   No.29

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美穂さんへ

夕暮れになるとふとあなたを思い出す時がある。
センチメンタルな僕をお許しください。

今あなたは幸せですか?


僕は…幸せかもしれない。
何も不自由はないから。
空が赤いと頬染めて笑うあなたを思い出す。
今あなたは笑ってますか?

僕は笑っている。
毎日充実してるから。

この空があなたに繋がっている。
あなたがこの世界に存在している

それだけが僕の心を強くする。

夕焼け空に鳥が飛んでいる。
自由に羽ばたいているがきっと家があるんだ。

僕も家に帰るよ。


今日も一日が終わる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エンターキーを押し、満足した。
酒のせいかな…
こんなセンチな夜もたまにはある。
まだまだ日記は続きそうだな。

僕はパソコンの電源を落とし、部屋ギリギリシングルベッドに身体を横たえ、またなんの変わりもない明日を迎える。

仕事も家庭も女も手に入れようと張り切っていた僕はもういない。
平凡なただの中年になってゆく。



…美穂side…


「美穂も大変だったのね」

「詳しく話してなくてごめんね」

「そんな事…寂しいよね」

大きなお腹を撫でながら知世は店のブラインドを上げた。
西日が強い夏の日。
先週進の葬儀を済ませ、初出勤だった。


あれから3年…

進はとうとう逝ってしまった。

64歳。

若過ぎる死…
まだまだ一緒に生きたかった。

ヨーロッパ旅行の夢も叶わず、呆気ないお別れだった。

あれは亡くなる一週間前だった。

進がボソリと話し出した。


「最近さあ、夢に孝子が出てくるんだよ」

孝子とは前妻だ。


「そうなの?」

「それでさ、おいで、おいでって…」

「やだ…」

私は薄気味悪くて身震いした。

「だよな。でも悪い気しないんだよな」

「ふうん」

私は複雑な心境で進に朝の薬を出した。
今思えばあれがお迎えというものなのかもしれない。
そして、お迎えは紛れもなく孝子さんで、私は役目を果たした気分だった。

進は孝子さんの所に帰ったのだ。

少しだけ妬けた。

だけど、私の心にはまだ誠さんの愛がコロコロと小さく固まっていた。


たった一年程だ。

41年のうちのたった一年程の恋。
なのに私の心の小さな灯火となっている。
そのせいか、私は気持ち良く進を孝子さんの元へ返せたような気がした。

私は進との結婚に悔いはない。

良い人だった。

真面目な人だったと思う。
妻想いで娘想いで…

私はそんな所に惹かれたんだ。

私は幸せだった。


誠さんとの事も進は一度となく疑る事もなく、知らぬまま旅立った。
これで良かったんだ。


あれは私の一瞬の幻の恋…


あれは私の熱く秘めた愛…



「美穂が居るから安心してこの子産めるわ」

陳列棚の埃をダスターで拭きながら知世は微笑んだ。
ようやく落ち着いた知世とご主人の遅く出来た初めての子供。
私も叔母気分で楽しみにしてる。


「任せて、私は知世の右腕よ」

私は力瘤を見せるようジェスチャーし、満面の笑みを見せた。
私は独りでもやっていけそうだ。
ここで、知世とやっていく。

知世の子育てを眺めながら…


恋や愛などもう縁遠く感じる今日この頃
それもいいだろう。


「でもさ、美穂はまだまだイケるから素敵な人見つけなよねっ」


「えー、いいよ。結婚はもういい」


知世は大きなお腹を突き出しながらダスター片手にツカツカ私に詰め寄った。


「バカね、結婚しろとは言ってない。恋をしろって事」


「恋ねえ~」


「恋はいいわよ、やっぱりときめきがあるわ。美穂あの爽やかクンと付き合ってる時輝いてたもの…」


「爽やかクンか、ふふ…懐かしいわ」


私は一度だけこの店にきた誠さんを思い出した。
あんな風に愛してくれる人なんてそんなに容易く見つからない。
あんなに愛する事ができる人なんてもう出会わないだろう。

他の人なんて考えられないな。
大体今の私に、あんなに人を熱く思えるバイタリティがないだろう。

恋愛スイッチはすっかり錆びれてオフモードだ。
鏡に映る自分はあの頃のような輝きはなかった。


「いいの、いいの!今は知世の赤ちゃんだけが楽しみなんだから」


私は彼女のお腹を撫でニッと笑った。
知世は嬉しそうな心配そうな微妙な表情だった。




…誠side…


雲は厚く下界は見えない。
パリ行きのビジネスクラスのシートに深く凭れ、僕は数時間後の取り引きの為に体力を充電中だ。
少し前に越したマンションでの独り暮らしに落ち着いた所だった。


結局あれから雪とは離婚した。


今思えば、僕達はとっくに終わっていた。
雪から何度か離婚話を持ち掛けられていたが、健太の高校卒業までは夫婦でいようと話合っていたのだ。

健太がなんとか地方の大学に進学し、僕らは役目を終え離婚した。


僕らはどちらかが悪かったなんて思ってはいない。
雪が健太の出生の事を隠していたのだって、健太を思っての親心だ。
離婚話の時にいずれは分かる事だから、僕達は健太に僕が父親でない事を話した。

それでも健太は「親父は、親父ただ一人だ、離婚しても親父は親父だろ」と言ってくれた。

僕はあの時の健太の言葉でもう十分満足だ。
そして雪もありがとうと言ってくれた。
僕も毎日家事と仕事をこなしていた彼女に礼を述べた。


家族で話し合った結果。


立川家解散。


皆それぞれの道へ進んだ。
雲の隙間からパリの風景が下界に広がった。
何度も訪れているのに異国の地に来ると少しだけ高揚する。

僕はリクライニングを戻し、ベルトを確認した。

パリ空港を出る時だった。


僕の目に忘れもしない後ろ姿が目に飛び込んできた。

美穂さん?


嘘だろ?


でも美穂さんだ。


僕が最後に見て焼きつけた彼女は後ろ姿だったから間違える筈はない!

僕はスーツケースを持ち上げて、後ろ姿を追った。

待って美穂さん!
彼女は気づかずタクシーに乗り込み行ってしまった。

僕は追いかけたい気持ちでいっぱいだった。
だけど取引先とのアポの時間も迫っていた。

重いスーツケースを地面に下ろし踵を返し、ガラゴロ転がしながら別のタクシーに乗った。

顔は見えなかった。

それに美穂さんがパリにいるわけないか。
よくよく考えたらそんなふうに思えてきた。

車窓から見えるパリ郊外の景色があれは幻と言っているかのように映画のセットの様に見えた。

だけど僕の胸は美穂さんと認識するだけでこんなにも騒がしくなる。



あれから5年も経っているのに…


だけど、もしも美穂さんに再び逢えるなら、
僕はやはりあなたを愛してしまうと思うんだ。

たとえあなたが僕を愛してくれなくても…
あなたはそれぐらい僕を夢中にさせた人だから。







このウラログへのコメント

  • 里織. 2017年11月07日 11:10

    美穂と誠は再会できるの!?
    明日はわかりますね、吾朗さんd(*´∇`*)

  • 吾朗 2017年11月07日 14:29

    > 里織.さん

    こんにちは
    いつもありがとう

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