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Moment No.28

2017年11月06日 09:26

Moment  No.28

…美穂side…


ガタゴト揺れる電車の中私は唇を噛み締め流れる景色を眺めていた。
誠さんの手のぬくもりが今も残る。

たとえ、間違っていた恋だとしても
愛してるの言葉は最初で最後の私達の真実の心だった。

終わりだ。

夢の時間はもう終わり。


目を覚まし、現実に向き合わなくては…
そう自分に何度も言い聞かせる。
なのに、私の頬を伝う熱い雫は何度も何度も零れ落ちる。

身体に染み付いた誠さんの記憶が叫んでいる。


まだあなたを愛してる。


ずっとあなたを愛してる。


立っているのが苦痛になり、車内にも関わらず私は泣き崩れた。
明日から誠さんの日常を想う事が出来ない。
この先、現実の誠さんはもういない。
私の記憶だけに彼は存在するのだ。

それがどんなに苦しく切ない事でも私は押し殺し生きていかなければならない。

それが怖い。

これが、本当の罪の償いの苦しみになるんだ。


誠さん…


あなたも同じようにこんな気持ちを引き摺って、生きてゆくの?


大丈夫ですか?」

しゃがみ込み泣き崩れていた私に、心配そうに声を掛けてくれた老女。

大丈夫です。すみません」

私が立ち上がると老女は皺だらけの手で私の背中をさすってくれた。
そのあたたかさは余計私の胸を締め付け涙が止まらなかった。







…誠side…


こうして、僕達の不倫は一年ちょっとで終わった。
世の中こんな秘密恋愛があちらこちらで存在してる。

よくある話、よくある結末。

そうだ、家に帰ろう。

とその時携帯が鳴った。
裕司からだ。

「お前なにやってんだよっ!俺一人に接待させんのか?」


「悪い、今直ぐ行く」

僕は開店パーティーを抜け出してきた事を思い出し、慌ててタクシーを拾った。

この時、真っ直ぐ家に帰っていたら、僕と雪とは何か変わっていたかもしれない

しかしそれは僕の小さなプライドだった。


パーティーは裕司の企画でそれは華やかだった。

パーティーコンパニオン美女達が華を添える。


僕は美穂さんの事もあり、半分ヤケ酒のように呑みまくっていた。
妙にテンションが高いのもそのせいだろう。
途中から記憶が曖昧になる程呑んでいた。



気がつくとホテルの天井が目に飛び込んできた。
両脇には若い美女達が眠っている。


裕司もソファーで若い女の子と寄り添い眠っていた。
割れそうな程重い頭を持ち上げ、夕べの記憶を辿る。


ああ、そうだった。

なんかメチャクチャ盛り上がってたなあ。

ヤッたのか?

一応パンツを覗いて自分のムスコな尋ねるが当然返事はない。
参ったな…全く記憶にない…


ふっ…


どっちでもいいや…


一人自分を嘲笑った。


そうだよ、SEXなんて感情はいらない。
やろうと思えば出来るんだよ。


簡単だ。


簡単だ…


ふっ…


はは…


さようなら、美穂さん…


笑いながら僕の目の端には涙が伝い流れた。
もう恋なんてしない。
懲り懲りだ。


そして僕の心は…




結局雪には戻らなかった。







…美穂side…


翌日、進の前では平静を装いなんとか店まで来れたが、私は思った以上に苦しんでいた。
開店前の掃除をしていたが、身が入らない。
何を思ったらいいのか心の居場所がないのだ。

誠さんに恋をしてから、いつもいつの時も必ず誠さんが頭にあって、彩っていた。
そこが真っ黒に塗り潰され、何を考えていいのかわからなかった。

真っ暗だ…私は何も見えない…


ガッシャーンッ!!


「美穂っ!」


私は立ちくらみ、棚に倒れかけた。


「ごめんなさいっ…」


落ちて割れてしまった商品を慌てて拾う。


「美穂、顔色悪いわよ、具合悪いの?」


「ごめん、なんでもない…ちょっとバランス崩しただけ…ごめんなさい…ごめんなさっ…うっ…」


割れたガラスの破片が指に刺さり、痛くて泣けた。
いえ、痛いのは指じゃない。

心が痛くて痛くて泣いていた。
もう届かない私の想い。

もう見ることのない爽やかな笑顔

もう触れる事のない誠さんの身体。

私は崩れるように泣いた。


「美穂?美穂っ!」


「知世…知世…別れたの…私、別れちゃったよぉ…」


知世が抱きしめてくれた。
知世が優しいから余計泣けた。

知世にしがみつき気が済むまで泣いた。


「バカね…美穂はバカ…そんなに本気になって…」


「だって…だって…好きだったの…本当に…本当に…大好きだったのぉ…」


そう言いながらも手が優しく私の背を撫でてくれた。
ちょっと落ち着き、カウンターの中の椅子に座らせてくれた。
切った指に絆創膏を貼ってくれ、知世は私の手を握った。

「私がいるわ。美穂には私がいる。男がいなくなったらやっぱり女友達よ」


「ありがと…」


「今夜はぱあっと飲みに行きますかっ!」


「うん!行くっ」


「ふふふ…」「ははは…」


私達は苦笑いした。
知世がいてくれて良かった。
心強い、私の親友だ。


大丈夫


大丈夫


きっと知世が…


きっと時が…


私を癒してくれるだろう。
今はまだ心の居場所がないけれど、
まだ恋しくて、泣くだろうけど、


急に会いたくなるだろうけど…


私は生きてゆく。


この想いを胸に秘め…この場所で…



「さあ、店開けようか」


「そうね、時間だわ」


開いたシャッターから、眩しいくらいの太陽と流れるような雲が見えた。

私はここにいるよ…誠さん







…誠side…


深夜1時、暗がりのマンションに音を気遣いながら入る。
健太の部屋のドアの隙間から、薄明かりが漏れている。

太もも高校生だ。
深夜遅くまで起きてる事が多くなった。

あの怪我がきっかけで、後遺症はなかったが、野球は辞めてしまった。
今じゃアニメオタクになって、二次元彼女に夢中だ。

雪は保険の仕事にすっかりのめり込み、今や、主婦業はそっちのけで仕事一筋。
疲れもあるせいか早寝だ。

僕はと言うと、殆ど外食
接待は増え、出張も多い。

同じ家に暮らしながらすれ違いの時間で殆ど他人だった。

一人深夜に風呂に入り、一人三畳の部屋で、パソコンを開く。


変わらない僕の生活だ。


経済的には豊かになっても僕の孤独は何も変わっていなかった。
瞼を閉じれば浮かぶのは最後に愛していると言ってくれた美穂さんだ。

極上に美しい彼女の面影だけが僕の癒しだった。


よし、書くか。


僕はキーボードに指を下ろした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美穂さんへ

こんばんは、美穂さん。

今日は接待有楽町で呑んできました。

今夜も午前様です。接待だと酔えません。
酔えないのに疲れます。

明日も早いんだよなあ。

では、おやすみなさい

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




エンターキーを押してアップした。
だけどこれは美穂さんには読まれない。
誰も読まない非公開ブログなのだ。



僕の単なる日記だ。


美穂さんに毎日メールをして眠りにつくのが習慣になっていたから、なんか書かないと落ち着かなくて、この非公開ブログを思いついた。
美穂さんを最後に見たのはあの別れた日で最後。

このブログは別れてから始めた。



あれから3年も経つ。

最初は美穂さんへの未練タラタラな女々しい内容だった。
しかし、時は僕の心を少しずつ穏やかに戻してくれた。

今は単なる日記だ。

だけど出だしがどうしても《美穂さんへ》になってしまう。


別に切なくもない。


仕事はやり甲斐あるし、今や生き甲斐だ。


それなりに稼ぎ、それなりに自由で、それなりに遊んでる。


だけど…





たまに孤独を感じる時がある。


たまにあなたを求めたくなる。


たまにあなたが恋しくなる。
たまにあなたと何処かで逢えるんじゃないかって…


淡い期待を抱く時もある。

そんな思いをこの日記に押し込めて僕は一日を終えるんだ。


いつかこの日記を書かなくても眠れる日がくるのだろうか?

僕は新しい画面に切り替え、新たにキーボードを叩き始めた。









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