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祇園交遊録 6 【 祇園にイトと言う女がいた・・・・5 番外編】

2017年09月07日 22:20

祇園にイトと言う女がいた・・・スピンオフ

大林君、大いに怒る!」・・・・その1


大林君はイトの店で部長をしている。

私より1つか2つ年下でかの伏見工業出身である。

伏見工業と言えばかつて荒れた高校でその名を轟かせていた。

特にラグビー部ドラマスクールウォーズ」のモデルとなり全国に知られている。

そんな訳で彼もかなりのくせがあり人によっては彼を大嫌いと言う人もいる。

私とは妙に気が合い慕ってくれている。

私が「祇園お姉さん」と慕っている『ラ・トゥール』で若い頃に黒服修行をしていた。
(修行していた頃は店の名前も違ってました)

今では祇園を隅々まで知る男である。


ある日の夕刻、イトに電話してみた。

『イトか?』
「は~ぃ♪」

相変わらず軽いノリの返事をするやっちゃ

『晩飯は食べたんか?』

イトは食が細いと言うか何も食べない時もある。

「さっき美容院でテーブルに有ったチョコボール個食べた。」
『アホ!水商売は体力勝負や!ちゃんと食わなあかんやろ!』

私はこの台詞を何度言った事だろうか・・・・・

『何か食べに行くか?何が食べたい?』
「イト、お肉が食べたい」
『塊か薄切りか?』
「塊がええわ~♪」
『ほな、三嶋亭でも行くさかい6時にしたく済ませとけよ』
『は~ぃ♪』

そうだ、大林君も誘ってあげよう。

彼は夕食はいつも王将ラーメンチャーハンと言っていたし・・・・

さっそく大林君で電話してみた

大林君か?今、何やっとんや?』
「あっ!夢さん、何って・・・・今は夢さんとこうして電話で話してますやん」

こいつ・・・おちょくっとんか

『イトと三嶋亭に行くけど行かへんか?」
「行く!」

力強い返事が返ってきた。

『ほな、6時半に三嶋亭の前においで』
りょうかいです♪」


イトを迎いに行き三嶋亭近くで車を降りた。

6時半まではまだ時間があるので三嶋亭向かいの2階にある喫茶店(現在はありません)で大林君が来るのを待つことにした。

他愛もない世間話をしながらふと窓から三嶋亭を見ると大林君が三嶋亭の前を行ったり来たりしている。

何度も行ったり来たりしているのをイトと笑いながら見ていた。

あまりにも挙動不審なので合流することにした。

喫茶店を出てみると大林君の姿が消えている。

『あいつ、どこへ行ったんや?』
「さぁ~帰ったんちゃう?」
『そんなアホな、電話してみるわ』

辺りを見回しながら大林君に電話をしてみた。

大林君か、今どこにおるんや?』
「まだ、来てはらへんみたいやったし御池通りまで往復しようかと思ってました」
三嶋亭の前におるし はよ、おいで』
「はい」

御池通りの方を見ているとすごい形相で走ってくる大林君の姿があった。

それを見たイトがツボに嵌ったかのように大笑いを始めた。

「アホや」と言いながら笑い続けてる。

ハァハァと言いながら私たちのところにやってきた。

「お待たせしました。で、ママ何が可笑しいんですか?」
「あんたの走ってくる姿見たら笑いころげてしもうたわ」
「待たせたらあかん思おて走ってきたんですやん」

三嶋亭の玄関先で大の大人が三人、一人は大笑いし一人はムッとした表情を浮かべもう一人は笑いながら二人を見ている。

三嶋亭にとってはえらい迷惑な話しである。

しびれを切らし三嶋亭マネージャーが出てきた。

「夢さん、お待ちしておりました」

と、店内に入るように促されてしまったのである。

靴を脱ぎ正面の階段を上がり迷路のような廊下渡り座敷へと案内された。

『イトは塊がエエってゆうてたしオイル焼きでエエな、大林君もそれでエエか?』

まだ笑い続けてるイトとまだムッとしている大林君の二人は無言で頷くだけである。

『もぉ、二人ともそのぐらいしときや』
『ほな、おねいさん ヒレでオイル焼き三人前とビール3本・・・・』
『イトはウーロン茶でエエか?』
「うん」
『それとウーロン茶、とりあえずそれでお願いします』
「はい、ご注文を繰り返します・・・・・」

とうとうイトはハンカチを取り出し笑いすぎて零れた涙を拭き始めた。

暫らくするとテーブル上のコンロには独特の八角形の底の浅い鉄鍋が置かれた。

肉の方もさすが卸と小売りをしている三嶋亭だけあって美味しそうな肉が運ばれてきた。

さっそく熱く熱せられた鍋に肉を敷き詰めるとジュっと耳にも心地よい音と共に
肉が焼ける美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。

『とりあえず乾杯しよか』

乾いた喉にビールを流れ込ませた。

今までムッとしていた大林君はニコニコしながら肉をほおばっている。

野球の話や新しく祇園にできたクラブの話なんかを大林君としながら食事をすすめた。

ふとイトを見ると黙って次から次へと肉を鉄板に乗せている。

『イト、お前なにやっとんや? そんなことせんとガン食いせえよ』

イトは肉を乗せる手を止め

「もう、2枚も食べたらお腹一杯になってしもぉたわ」
『お前が肉の塊がエエってゆうから三嶋亭に来たんやで、もっと食べんかい』
「あかんて、これ以上食べたらねむとなってしまうわ」

それを聞いた大林君と私は間髪入れずに叫んだ。

『ほな、やめとき!』

これ以上食べさせて開店前に眠くなって家に帰られたのでは話しにならない。

『ほな、食べんと待っときや』
『でもな、そない次から次と肉を乗せられたらこっちが食べるのに忙しいやろ!』

最初に運ばれてきた肉の皿は空にしてしまってた。

『すみませ~ん、オイル焼きの今度はロースを三人前お願いします。』
大林君、お前大丈夫いけるやろ?』
「なんぼでもいけまっせ~♪」

と言いながら次次と肉を口に運んでた。

気が付けばビールの空瓶も七本傍らに転がっている。

元来、私は飲む時は食べない方なので肉のほとんどは大林君が平らげた事になる。

そして追加で運ばれてきた肉も焼けるのが待ちきれないと言うかのように只々無言で食べ続けている。

さすがに追加の肉二人前分が消えるころになると大林君の箸のピッチも落ち

「あかん!もう、あかん!苦しいわ!」

と独り言のように呟きながらビールを口に流し込んでいた。

その時である。
イトの携帯が鳴りだした。


【次回へ続く】

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