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甘い香り⑪

2017年08月14日 00:44

甘い香り⑪

その後、ビニール製の何かで台車はすっかり覆われ、ガラガラと音を立てながらどこかの建物の中を進む。
建物の中の割には揺れが酷く、何かの倉庫の様な場所か……それとも通用口だろうか。

途中で誰かに「お疲れ様です」などと声を掛ける理沙子の行動は十分怪しかったが、深く考えることは出来ない。

ここ数ヶ月の調教の成果もあり、良介は今や、期待で股間を膨らますだけのただの浅ましい犬に成り下がっているのだった。

と、その時……

大きな扉を開ける気配がし、食べ物の匂いとガヤガヤとした音が一気に飛び込んで来る。
そして床に絨毯が敷かれているせいで、もう揺れることも無かった。

そこからは周囲の様子を見ながら進んでいるのか、進んだり止まったりを繰り返す。
良介はそれすら焦らしプレイのように感じ、ただひたすら興奮を高めていた。
拘束を解かれたら、きっと猿のように股間をしごき立ててしまうだろう。

しかし暫くして、台車がなめらかな板張りの上を進み始めたとき、さすがの良介もギョッとした。

――聞き覚えのある声がしたのだ。

『こりゃ旨いな』
『ほらほら、鈴木くんもイケる口なんだろう?』
『すみません~おしぼりください』

それは職場の同僚、上司、そして女子社員たちの声だった。







ニールの覆いが取られると、宴会場の空気が一気に感じられる。
この状況にパニックになりそうになる良介の口を、理沙子の唇が包み込んだ。

大丈夫よ……」

目隠しを外されるとそこは少し薄暗い場所で、良介はすぐに目が慣れて来た。

「ここは……」

あろうことか、自分の会社の社員旅行で使っている宴会場の端の、幕が下りた舞台の上にいるのだ。

幕は厚く、光を少しは通すが向こうの様子が見えることはない。

しかし良介は台車の上で股間を晒したまま、会社の人間と一緒にいるのだった。
ただ一枚の布を隔てて……

社員旅行の目的地からほど近い温泉地に来ているのはもちろん知っていた。

しかし、社員旅行については日程以外のこと……場所についてなどは理沙子にも誰にも言った記憶が無いのに、どうしてこんな場所に自分はいるのだろう。

分からないことが多すぎて、声を出さないという命令を忘れ口を開こうとする良介の股間が軽く足で蹴られる。

(あっ……)

この場所に着いてからすっかりしぼんでいたその場所が再び硬くなるのは一瞬のことだった。

社長は余興とか嫌いなのよね? だからこの幕は絶対上がらない……違う?」

そんなことまで理沙子はどうして知っているのだろう。

……もちろん、自分のことを大切に思っているからに違いない。

(俺のことがそんなに……)

良介は驚きも忘れて再び興奮してきた。

もしかして……ここでプレイをするのだろうか。



「す……すっげえ……!」

予想以上の展開に思わず声を漏らすと、眉を吊り上げた理沙子がジーンズのポケットからリモコンを取り出した。

よく見ると、理沙子はいつの間にかスモックのような似つかわしくないものを羽織っている。
そのスモック胸元と、床に放り出されたビニールの覆いには大手クリーニング店の名前が印刷されていた。

通用口から入りやすいようにカモフラージュしたのだ、

(俺のためにそこまで……)

間違いない。
こんな手の込んだプレイをしてくれる人が他にいるだろうか。

「言いつけを守れない子はお仕置きよ」

尻に刺さった電動プラグがうなりを上げる。

(くうううっ……)

それは強烈な快感だった。

(理沙子さんに入れたい……いや、ちょっと先っぽを触るだけでも……)

懇願するように見上げるが、理沙子の表情は変わらない。

ここで延々と焦らされるのだ……

そう思うと、堪らなく焦れた気持ちになるのに、先走りがあふれ出るほど興奮してしまうのも感じる。

しかし、こんな場所で長居をするほど理沙子は馬鹿ではなかった。




「ところでさっき見かけたんだけど……可愛らしい女の子たちが結構いるんじゃない。どうせお気に入りでもいるんでしょう?」

ブルブルと首を振る。

「フフ……馬鹿ねえ。嫉妬なんてしないわよ。貴方のことが知りたいだけ……ねえ、あの子でしょう。マナミと呼ばれていた子。」

総務の愛美……

そう、童顔で胸が大きく良介の好み女性だった。
何度自慰ネタにしたか分からないほどの……。

良介は、おずおずと頷いた。

「やっぱりね……。ねえ、すぐそこにマナミちゃんがいるのよ。口うるさい社長も……生意気な後輩も」

理沙子の手がヌルヌルに滑った良介のペニスを柔らかく握った。

「ほうら……気持ちいいでしょう? 今、どうしたい?」

理沙子の手の動きはまるで羽のように柔らかい。
最高に気持ちがいいが、最高に物足りない状態だった。

愛美の可愛らしい笑い声が聞こえる。

(なんでもいい……しごき立てたい! ここで……)

貴方を自由にしてあげるわ……何もかも捨てるのよ」

拘束している縄を解くと、理沙子は無表情で幕の中央の高い場所を指差す。
よく見るとそこには一ヶ所だけ光が多く差し込んでいた。



(あそこから覗けるのか……)

すぐに立とうと思うが、拘束が長かった為になかなかうまくいかない。

尻から大きな尻尾を生やしながらフラフラと這う良介は本当に犬のようだったが、段々と立ち上がり、股間をしごきながら前へ、前へと進む。

その後ろでは理沙子が台車と縄を手早くまとめていた。

(マジで理沙子さんの考えることは最高だ……ああ、すぐに出ちまいそうだぜ……)

ずっと焦らされて、良介はもうすでに高まりきっていた。

(それにしても見辛えなあ……マナミはどこだ……。ああっ、またプラグが強く……)

クライマックスが近付き、激しく手を動かしたまま幕に触れるほど前に出たその時……
良介の視界はパッと明るく開かれた。

「キャ――――――――ッ!!!!!」

ウィ――ン……と音を立て、幕が大きく開いていく。

しかし、良介は射精を止めることが出来なかった。

「ああっ……おおおお……」

舞台から液体を飛ばす良介を見て、男性陣は誰もが言葉を失っている。
聞こえるのは女子社員たちの悲鳴ばかりだった。





台車を持って舞台横の出口から廊下に出ても、誰も理沙子に注目などしない。

旅館の従業員たちは皆、騒ぎを聞きつけて宴会場の中に駆けつけていた。

「あのマナミって子……優雨とタイプが全く一緒じゃない。失礼しちゃう……まあ、あんな男はどうでもいいんだけれど」

もと来た道を戻って、従業員通路を抜け足早に車に戻る。

電話をしたら早く車を出さなくては。

足が付いたらレンタカーを借りた意味がない。

「…………あっ、もしもし警察ですか?! 変質者が旅館に全裸乱入してきて……目が異常で、怖くて……何をするか……ああっ、すぐに来てくださいっ!」

電話を切ると、理沙子はすぐに車を出した。

優雨は今頃何も知らずに……もしかしたらまた結城と抱き合っているかもしれない。

――今のうちにせいぜい甘い夢でも見ておくがいいわ。

理沙子は理由の分からない虚しさを吹き飛ばすように笑っていた。











――あの事件の夜から一ヶ月が経った。

現行犯逮捕された良介だったが、初犯であったことや、社長の温情――というより、破廉恥醜聞から自社の名を守りたいという思い――から拘留を免れ、罰金刑のみとなる見通しになっていた。

しかし当然ながら懲戒解雇はされ、そしてその際には新たな経費の使い込みまで発覚してしまった。
百万円近い金が、何のために必要だったのか……また、その使い道はなんだったのか。
優雨には想像もできなかった。

分からないことは他にもあった。

あの夜、理沙子と一緒だったはずの良介が、なぜ一人で会社の宴会が催されている宿に向かい、あの様なことをしたのか。

スマホの電源を切ったまま結城と過ごしていた優雨が、夫がしでかした事件を知ったのはもう夜が明けてからで……理沙子が急に体調を崩し一人部屋で休んでいたことも、良介が一人外出したことも、全く気付くことが出来なかった。

結城とまるで――恋人のように過ごした、夢の様な時間は突然終わってしまった。

そしてあれ以来、優雨の日常は激変し、あの時の様な幸せな時間はもう二度と訪れないのかもしれなかった。




平日の午後二時、優雨のパート先である〝くまざき〟は今日も多くの客で賑わっていた。

店の一番の人気メニューは創業当時からの名物であるビフテキをメインとしたコース料理で、その味を求めて遠方から訪れる客も多い。
しかし、ビーフシチューメンチカツなど、その他の人気メニューを平日に限ってお値打ちに味わえるランチタイムが、この店が一番活気づく時間だった。

ランチタイムが終わる時間ではあるが、まだ料理を待っている客がいる。
そんな、まだ忙しい時間帯に店の電話が鳴り響いた。

すぐに受話器を取らなければ……と思った優雨だったが、それは従業員だからというだけでは無く、実はある個人的な理由があった。

しかしちょうど接客中だった為に、片付けをしていた先輩従業員が受話器を取ってしまった。
そして思った通り、電話に出た彼女の顔はすぐに曇った。

「優雨さん、電話よ。ほら、ホール変わるから」

以前は明るく接してくれていた先輩が、明らかに不審そうな様子で優雨に耳打ちする。

「あ、はい……すみません……」

心から申し訳ないと思いつつも憂鬱な気持ちになり……優雨はため息をついた。

誰からの電話なのかはもう分かっている。
良介が手を出した闇金融の取り立て屋だ……

使い込んだ金を良介はすぐに返済したが、それは優雨に相談も無く怪しげな場所から金を借りてのことだったのだ。

取り立て屋は、自宅だけでは無く優雨の勤め先のレストランにまですぐにやって来た。




パートで働いているウェイトレス宛てに、店に電話が入ることなどまず無い。
それなのに、日に何度も同じ男の声で優雨宛ての電話があることに、職場の同僚たちは皆様々な憶測をしている様だった。

電話だけならまだいい。
日によっては、店の外から強面の男たちが数人でじっと覗き込んだりするのだ。

初めは色恋沙汰を想像していた同僚たちも、今ではその男たちの本当の正体に気付いているのかもしれなかった。

(あんなに怖い人たちからお金を借りるなんて……)

取り立てと言っても、ドラマで見たことがあるように怒鳴り込んで来る訳ではない。
電話を何度も掛けて来たり、店の外で長時間じっと睨みつけていたり……もっと執拗で、陰険な方法だった。

解雇されて以来、職探しもせず家でゴロゴロしている良介だったが、周囲に取り立て屋が来るようになったものだから、居留守を使い更に家に閉じこもるようになってしまった。
理沙子とも会っている様子はない。

家と車のローンや借金の返済、取り立て屋の嫌がらせ……
全てが自分にのしかかって来て、優雨は途方に暮れていた。

店長に頼んでほぼ休みなくパートに入れるようにしてもらったが、そんなことでは補いきれそうにないのは分かっていた。

(これからどうしたらいいのだろう……)

でも、今はまず電話に出ないといけない。
何を言われるのか分かり切ってはいるけれど……




店先の電話では無く、事務所の中で受話器を取ろうと小走りで事務所に入る。

と、その時……
すぐ後ろからドシンドシンと入って来た店長が、優雨を追い抜き、パッと受話器を取ってしまった。

「もしもし?」

「あっ……店長!?」

慌てる優雨を店長は空いた方の手で制す。
その顔はとても険しくて、いつもニコニコ笑っている熊さんのような店長とは別人に見えた。

「うちの従業員に何の用ですかね? ……店長です…………いや、それよりもあんた達のやり方にも問題あるんじゃないか? 変な連中に店の周りをうろつかれて迷惑しているんだ……」

(店の外の男たちのことも、店長、気付いていたんだ……)

こんなに迷惑を掛けて、どうお詫びしたらいいのだろう。
息をするのも辛いぐらいに胸が苦しい……

「あんた達にも理由はあるだろう。でも、職場になんか来なくても彼女は逃げたりしない……何なら、然るべきところに相談してもいいんだよ…………うん、はいはい、よろしく頼むよ」

ガチャン……と受話器を置くと、店長が優雨の頭をポンポンと叩く。

「もう店には来ないよ。電話も無い」

「え……?」

店長の顔を見上げると、いつもの優しい笑顔が浮かんでいる。
でもその姿はいつもよりも更にどっしりと頼りがいがあるように見えた。





「何があったのかは知らないが……ご主人のことなんだろう? 優雨ちゃんがあんな危ない連中と関わるとは思えない。最近急にシフトを増やしたのもそのせいだよね」

「あの……それは……」

「今日はもういいから、帰って話し合うといい……ずっと休んでないんだから。明日は定休日だし、時間を掛けてご主人としっかり向き合うんだ」

そんなことまで考えてくれていたなんて……
思いがけない、店長のその思いやり溢れる言葉に、優雨は涙が溢れそうになった。

「それでも解決しなかったら、なんでも相談するんだよ」

「……ありがとうございます!」

確かに、優雨は休む間もなく働き、家に帰っても良介は逃げるように自室に閉じこもってしまうために話が出来ていなかった。

うんうんと頷きながら事務所を出ていく店長の大きな背中に、優雨は深々と頭を下げた。

……ロッカー室に入り制服を脱ぐと、胸の間や背中にびっしょりと汗をかいている。

ここのところ、お店の人たちに申し訳なくて本当に気が休まらなかったが……これで取り合えずお店に迷惑は掛からなくなったのだと思うと、店長への感謝の気持ちが改めて込み上げてくる。

そしてタオルで汗を拭き、バッグにしまってあったスマホを確認すると、結城からの新着メールがあった。

見ると、開封していないメールのタイトルだけがずらりと並んでいる。
ここ数日のものは『どうしている?』『一度連絡を』といったものばかりだった。




あれ以来、結城とは会えていなかった。
そんな時間は無かったし、それ以上に、以前のように四人で会うことのなくなった今、優雨が結城と堂々と会える理由はもう無いのだ。

もちろんすぐにでも会って、その胸に飛び込みたかったが……
会ったら、結城には言っていない良介の借金のことや取り立てのこと……何もかもを結城に吐き出してしまいたくなりそうだった。

そんなことしてはいけない……
そう考えて、バタバタしているので少し時間くださいとメールをしてそれきりになっていた。

しばらく会わないと決めただけだから、結城は毎日のようにメールをくれていたが、取り立てが激しくなってきたここ数日、優雨は返事もしていなかった。

……メールを読んでしまったら、泣き言を言ってしまいそうだ。
優雨は涙を拭いて、新着メールの中身は確認せずに家路へと急いだ。







結城家のリビングでは、早い時間から酔った理沙子が帰宅したばかりの結城を前にご機嫌で話をしていた。
話題の中心は……良介のことだ。

「それでね、あの男……取り調べの時も、クライマックスのくだりになると目を潤ませて勃起しちゃうんですって……ほんと変態よねえ」

理沙子の話を結城は無表情で聞く。
以前はどんな時も無難に取り繕っていた妻への態度は、最近ではとても冷たいものへと変わっていた。

理沙子の説明では、あの日突然生理になり、それに不満を感じた良介が勝手に旅館を出て行って一人であのような事件を起こしたのだということだった。
しかし、日頃の理沙子と良介の関係性を知っている結城はそれが信じられなかった。

それにいくら良介に愚かなところがあったとしても、あのようなことをすれば身の破滅だということぐらい分かるだろう。

実際、良介は起訴はされない見通しだが懲戒免職となっていた。

良介がそのようなことになった以上、今までのように結城と優雨が会うことはもう叶わなかった。
世間一般的には二人は恋人同士などではなく、あくまでも〝夫婦交換〟という特殊な条件で繋がっていたに過ぎないのだ。

今まで数々の夫婦女性たちと結んできた関係の中では感じたことのなかった、儚さやあっけなさの様なものを感じ、結城は言いようのない虚しさを感じていた。




もちろん、優雨を大切に思う気持ちに変わりはない。
すぐにでも会いたいと思ってはいたが……

大っぴらに会う理由が無い上に、優雨からも少し時間が欲しいと言われていた。パートの時間をかなり増やしているらしいのだ。

優雨の話では、警察から戻った良介は殆ど家にこもりっきりだという。理沙子とも会っていないようだ。
収入が途絶え生活が困窮する中、全てのことを優雨に押し付ける良介に、日頃は穏やかな結城も怒りを覚えずにはいられなかった。

そして、理沙子に対する疑惑……
なぜあんなことになったのかを、妻は全て知っているのではないか……?

「……その話は誰から聞いたんだ? 彼と……会っているのか」

もしかすると二人は会っているのかもしれない……そう思ったこともあったが、それを問い質すのは初めてだった。

もし会っているのなら、優雨一人が働いている状況なのになんとも思わないのだろうか……と改めて憤りを感じる。
優雨の方は、こんなことになったのは妻である自分の責任でもあるのだから……と自分を責めてさえいるのに。

そのせいで優雨は、マンションや車のローン……一人ではなんともならない筈なのに、結城が申し出た援助も頑なに拒んでいた。

妻として至らなかった自分、夫を甘やかして来た自分、他の男を愛し、夫が窮地に陥っている時にその腕の中で眠っていた自分……

結城が何を言ってもその心は閉じられたままで、いくら愛していても自分は無力で、優雨は良介の妻なのだということを思い知らされた。

現に、上着の中のスマホは黙ったままで、ここ数日途絶えたままの優雨からのメールの返信が未だに無いことを告げていた。

このウラログへのコメント

  • 里織. 2017年08月14日 06:20

    凄い展開…
    良介はどうでもよいですが、優雨が可哀想…

  • 吾朗 2017年08月14日 07:02

    > 里織Sさん

    おはよう

    いつもコメありがとう

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