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中日新聞より。

2017年02月11日 23:34

『親切のバトンタッチ


愛知大に勤める梅村さん(62)。
通勤途中、名古屋駅地下街を歩いていたら、後ろの方から「お姉さーん、お姉さーん!」という高齢の女性の声が聞こえた。
「どうしたのかな」と思って振り返ると、すぐ近くを歩いていた青年が「おばあさん、どうしたんですか」と近寄り、声を掛けた。
息せき切って「前を行く若い娘さんのかばんから、この財布が落ちたんですよ。慌てて拾って追い掛けたんだけど、娘さんの足が速くて…」と言う。
青年は「わかりました。僕がバトンタッチしましょう。任せてください」と言い、パッと財布を受け取り、顔を上げた。
その瞬間、梅村さんはハッとした。
青年に見覚えがあったからだ。
教え子で今年入学したばかりのT君だ。
向こうも、こちらに気づいたらしく「あっ、先生」と言い、お辞儀をしかけた。
「あいさつはいいから、早く追い掛けて。頼んだよ」と言うとT君は全速力で駆けて行った。
さて、その後どうだったのだろう?気になって仕方なく、梅村さんは出勤後、T君に電話をした。
すると「無事に渡せました。私に声を掛けられた女性は、最初は何事かと驚いていましたが、喜んでいただけました」と言う。
地下街で人通りの多い中「娘さん」と言っても、対象は大勢いる。走りながら何人かに目星をつけて、次々に声を掛けたらしい。
「素晴らしい活躍だったね」とT君を褒めたところ、「当たり前のことをしただけです」とサラリ。
「彼は将来、教職を目指しています。きっと子どもたちのお手本のような先生になれるでしょう」と梅村さんは話す。

中日新聞掲載 2016.12.11》

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