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感謝

2016年07月05日 19:00

頭に浮かぶのはいつも頭を下げる親父の顔だった。
「すいません。」
こちらが悪くなくても親父は必ず謝る。
そんな親父が私は嫌いだった。
実家は小さな町工場。親父は、そこの社長だった。
社長と言えば聞こえがいいように聞こえるが所詮中小企業の一つに過ぎない、吹けば消えるような小さな会社だった。
ある日を境に両親達が喧嘩をするようになった。
話に耳を傾けるとどうやら資金繰りが悪化してるらしい。
お袋は、従業員の給料を削る提案をした。
親父は、首を横に振ってこう言った。
「ダメだ。あいつらの生活までダメになっちまう。現に佐々木のボウズは、春に小さいガキが産まれたばっかりだ。他にも、肩に自分以外の命を背負ってるもんばかりだ。嬉しそうに話すあいつらの顔を壊したくねぇ。」
お袋は黙って俯いていた。
「じゃあ、〇〇のことはどうするの……?」
「〇〇のことは心配するな。あいつが大学まで行きたいってなら面倒を見てやる。これは、俺の問題だ。女や子供は口を挟むな!」
その、二日後に親父とお袋は離婚した。親権はお袋にあった。
火中の栗を拾うのは難しい。
しかし、その渦中から遠ざけることならできる。
親父は自分を犠牲にして、私達を守った。

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