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ツボミノオモミ

2016年01月23日 17:40

寒い。急に39年ぶりの強い寒波だという。この前まで記録的な暖冬、と油断をしていた身にはこれは堪える。このところ地球規模で天候不順なようで不安になる。

と、人間は右往左往しているが、地に足を着け、不動を地で行く植物は一向に動じていない。春先の桜、それも栽培種である染井吉野の開花は我が国が誇るべき涙が出る美しさであるが、その染井吉野の枝先の蕾が日々、膨らみを増していることに息を呑む。

この寒さの中で、あの小さな蕾の中では、日々花弁が育ち、雌雄の蕊が大気に解き放たれる日を待っている。

そこにあるのは信仰か。疑いを知らぬ帰依か。或いは従順な熱狂か。声なき献身を聞く気がしてしばし立ち止まり、曇った空をバックに細い枝を見上げ眺めいる。


思えば花の命ほど儚いものはない。人間が一方的に愛でるのは勝手なことで、本来は生殖の為に媒介者を引き寄せる目的で懸命に進化した結果の美。ただ美しい、というより花を見る度にある種の覚悟を感じさせられ、たじたじとなる。

花の美を追求した結果、人工的に改良され産まれ、また増やされた染井吉野には特に悲壮を感じる。善意の産物であることは理解できるが、これはplayinggodではないのか。それを言うなら金魚でも犬、猫でも人類はそれを行い、誰も疑問視しなかった訳であるが。


そして。その染井吉野は一斉に「咲き誇る」。しかし彼らは「誇っている」訳ではない。進化の結果産まれた種ではなく、人間の手によりその美しさを極限まで高められたいわば競走馬のような人工的な美。染井吉野は一斉に開花し、花粉を放出し、結果として媒介者である昆虫、鳥、また食物連鎖でより下位の生物に食物を提供する。

しかし、染井吉野は受粉しない。彼らは全て、同じ遺伝子を共有することの当然の帰結。この世に存在するすべての染井吉野は最初の一本から接ぎ木で増やされたことは良く知られている通り。

故に染井吉野生殖しない。それを許されない悲しい生物である。人々がその美しさを愛でることは彼らには関係ない。彼らはただ、自らの運命を受け入れ、春に備え蕾を膨らますのみである。


生殖を目的としない開花。これに勝る献身があろうか。


勝手な連想ながら、同性愛に通じる無償の愛を感じさせる。



そこにあるのは究極の美か。


突き詰めた愛の形か。




染井吉野の花は、ただ儚い。


しかし不平不満を言わず、春ごとに人々の目を楽しませる彼らには哀愁はない。彼らにあるのは恭順と、懸命と、達観である。




染井吉野の蕾のように、わたしはなりたい。

このウラログへのコメント

  • ベソ 2016年01月23日 20:01

    > フィリシティ(旧HNふみよ)さん
    こんな駄文にいつもお付き合いくださり有難うございます。他の男性ユーザーのログでお疲れになった際には、またわしの駄文を読みに来てくださると幸いに存じます。良い週末を

  • まお子 2016年01月26日 11:03

    生殖を目的としない開花
    同性愛じゃなくてもある愛の形
    私はいつまで咲いていられるのか
    とつい考える
    いつまでも自分の為に咲いていたいものです。

  • ベソ 2016年01月26日 20:43

    > まお子さん
    それが女性の感じ方なんやろか…

    男も無駄に身体鍛えたりするもんね。誰に見られる訳でもないのに。


    でも貴女の場合はきっと男の視線を集める。それが美しい花の宿命…

  • masago 2016年02月05日 23:49

    お返し訪問参りました

    昨年ソメイヨシノの原木か?なる桜を上野公園へ見に行きました。
    ホントに最初の1本なのかなぁ~?

  • ベソ 2016年02月07日 00:09

    > まお子さん
    考えてみれば人間の性行為は生殖を目的としないものが大部分

    婚外の営みなどその最たるものな訳で…

    そう考えると染井吉野が身近に感じられますな


    今宵は誰が咲かすか、寝室の染井吉野…

  • ベソ 2016年02月07日 00:15

    > masagoさん
    へええ! 上野公園に…

    調べてみるとどうやら本当らしい。千葉大学の先生が「ソメイヨシノの起源を解明」というタイトルで論文を書いてはった。貴重な情報を有難う~

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