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2-谷間

2012年10月12日 12:49

2-谷間

何でも美味しいと男が答えると、女は幾つかを注文する。
向かいに座った女の顔を見ていても、男はどうしても胸に視線が行ってしまった。
それほど素晴らしい胸で、恐らく75のFカップ
先程から男は遠慮せず見ることにしていた。

また私の胸を見てる、女も前からそれに気が付いている。
あからさまに見詰めるあの目、見られているだけでさっきから濡れているのが分った。
一番目と二番目のシャツボタンを先程トイレに行った時に外し、谷間がよく見える様にしたのを男は知っていた。
・・・もっと奥まで見て、そう女が伝えている

男は自分の事はなるべく話さず、女のことに話を持って行く。
結婚して15年経った今、やっと子供にも手が掛らなくなり、少しは自分の時間が持てる様になったと言う。
手が掛らなくなった自分の時間・・・誘って欲しいと女が伝える
中学2年の女の子と小学5年の男の子の二人の子供が居て、実の母親と主人の5人暮らし。
そう話す女に対していつもの様に男は亭主の事は一切話題にしなかった。
勿論、子供の話もしない。

二杯目の生ビールを二人が飲み終えた所で、男はキープしてある紹興酒をロックで飲み始める。
女はそれが駄目との事でカシスサワーに切り替えた。
匂いに癖のある紹興酒は飲まない人は多い。


「淑子さんはお酒が強そうですね」
「ええ、幾ら飲んでも酔ってしまうことはありません」
「ほー、それは頼もしい。私はすぐに酔っぱらってしまう」
お酒に弱い人は、紹興酒をロックでは飲みません」
男より女の方がアルコールには強く、その男も競争などしたくもないと何時も考えていた。
確かにその後三杯のサワーのお代わりをダブルにしても全く平気な女だった。

40代半ばの店の主人は始終こちらを意味あり気に見ている。
ここに一体何人の女を連れて来ただろうと男は考えずには居られなかった。
7時を過ぎ店は満席で、幾組かが入れず帰って行ったが週末はいつもこうだ。
安くて美味く愛想のいい店は、いつの時代もこうして繁盛する。
前に座った男が唐突に尋ねた。

「淑子さん、カラオケは好きですか?」
男はいつも家族や子供を連想する苗字では女を呼ばないが、それを嫌がった女は今まで一人も居なかった。
会った初日から下の名前で呼ぶ。

「主人はいいのよ、子供たちに嘘を吐いて出て来ているのが辛くて・・・」
随分昔にそう言われてから、男は苗字で女を呼ばなくなった。

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