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届かない言葉・・・その10

2016年10月08日 06:21

届かない言葉・・・その10

僕としては早く帰りたいところなのだがどうやらこの小娘はすぐには解放してはくれないようなので
とりあえずさっきこの小娘からもらった缶コーヒーを開けようと思いながら小娘の方を見ると
この小娘も・・・いや、そろそろ奈緒という名前で呼んだ方が良さそうなのでそう呼ぶ事にする

奈緒の方をチラッと見ると彼女も僕と同じ缶コーヒーのようだが
偶然なのかそれとも必然なのかよくまあ僕の好み缶コーヒーが分かったものである
というより・・・どうしてこいつが病院にいるんだ?
いや・・・その前にこいつは高校にも行かないでなにやってるんだ?
そんな事より・・・そのせんべいはどっから出してきたんだ!

気がつくと膝の上に乗せたカバンの中からお菓子の袋を一つ取り出して

おせんべ食べる?」

何となく由香に似ている所があるかな?と思ってはいたのだがここも由香に似てしまったみたいである
僕と付き合っていた頃の由香はいつもお菓子を持ってきては一人で喋って一人で食べていた
しかも一種類ではなくお菓子の袋を3つも4つも持ってきては
封を開けてははちょこっと食べてまた違うお菓子の封を開けてまた食べる
そして自分が満足すると残りのお菓子をみんな僕の部屋に置いて帰る

もちろん車でドライブするときも例外ではなくやっぱり自分の膝の上にお菓子の袋をいくつも出してきては
お菓子の袋を開けて少し食べては次のお菓子というよに次から次へと袋を開けていくのである
懐かしいと思いながら奈緒がせんべいを食べてる姿をぼんやり見ていたら

「優しい目で見るんだね」

「ん・・・?」

「由香おねえちゃんが羨ましかったんだ」

「どうして?」

「由香おねえちゃんを見るときっていつも優しい目で見てたから」

そんな事はないと思うのだが・・・
それにそんなに僕が由香を優しい目で見ていたのなら離婚などにはならないと思うのだが・・・

「僕は・・・いや俺はと言った方がいいかな?」

「うん、その方が好き・・・」

好き・・・?
別にお前に好かれたくはないのだが・・・

「どうして俺に声をかけたんだ?俺は悪い人になっているはずだが?」

「周りはみんなそう言ってるよ」

「お前は?」

「ヘヘ・・・お前って・・・言われちゃった!言われちゃった~!」

なんなんだこいつわ!
それにせんべいを食べるのか話をするのかどっちかにしろよな!

「さっきはどうして暗い顔をしてたの?」

どうやら頭は悪くないようだ、どうやったら自分が主導権を握れるのか本能で知っているようだ
自分のペースで話の道を作っていく
こいつとはまだ少ししか話をしていないがバカか利口かは少し会話をしてみればすぐに分かる

「そうだ!お前知ってるか?」

「なに・・・?」

「お前がまだ幼稚園の頃だけど、奈緒が大人だったら間違いなく俺は奈緒を落としてたって話」

奈緒の顔がいきなり真っ赤になった!
はは~ん・・・やっぱりまだおこちゃまのようだ
会話の中では自分の本当の感情を見せないように話を作っていたようだが
まるで「頭隠して尻隠さず」を字で言ってるような面白い小娘のようである

しかし考えてみれば奈緒とは今まで一度も話をした事がなかったし
由香の実家に行った時にチラッと見る程度だったのだが
まさかこんな風に話をするような日が来るとは僕としては夢にも思っていなかった

明日も仕事があるから、そろそろ帰るからと言って席を立つと
奈緒は車まで見送りすると言って僕についてきた

外はまた雪が降っている
外は寒いから玄関まででいいよ!と僕は言ったのだが
車まで見送りすると言ってきかなかったので仕方なく車まで一緒に行くことにした

「もうここでいいよ、寒いから早く戻れ」

今さっきまで元気な小悪魔だった奈緒がうつむきながら僕の背広の袖を握ってきた

「由香おねえちゃん、余命1年なんだって言ってた」

僕は驚いて、うつむいたままの奈緒の方を振り返った

「誰に聞いた・・・?」

「あばあちゃんが言ってた」

「そうか・・・」

誰にも言っていないと言ってたのだが・・・
奈緒と話していて分かったのだが、この子は人懐っこい性格ではなくて
どちらかというと人を選ぶようなタイプというか人に懐かない性格というか
由香もそういう性格だが奈緒がそんな由香に似ていたからなのだろうか?
とはいえ、教えた理由までは分からないがきっと奈緒にはそういう何かがあるもかもしれない

背広を袖を握ったまま僕の身体に自分の身体をよせてきた奈緒の肩が震えている

「まだ、そうと決まったわけじゃないから大丈夫だよ」

「ほんとに?」

「ああ、本当だ・・・」

僕の言葉に顔を上げた奈緒の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた
由香の余命を知ってから今日まできっと我慢していたのだろう・・・奈緒は声をあげて泣き出した
僕はそんな奈緒が由香と重なって見えてしまう
奈緒は泣き方まで若い頃の由香にあまりに似すぎている
現在過去未来が僕の頭の中でバランスを崩し始めていく

泣いてる顔を隠さないで、両手をきつく握り締めながら泣いてる奈緒
そんな奈緒を見ていると、離婚するまでの何年かの時間の中で
由香がどれほどの涙を流していたのかが痛いほど分かってしまう

由香が初めて僕の前で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いたとき
僕は二度と由香を泣かせないと誓ったはずなのに
「鬱」という時間の中で転がり堕ちていった僕はその誓いまでも忘れていた
雪が降りしきる中、泣き続けている奈緒の頭を僕の胸に優しく引きよせた

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