デジカフェはJavaScriptを使用しています。

JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。

【短編】名もない花

2009年11月04日 00:56

「あら、かわいい。私の蜜を吸ってよろしくてよ?
  ここまで登ってこれたらね。」
鋭い棘を持つバラはふふっと笑った。

「そんな堅物、相手にしなければいいのさ。
 ほら、私の蜜はこんなにもいい香り。」
甘い芳香を放ちながらウツボカズラは言う。


そんな二人を無視して、彼は日の影でひっそりと咲く名もない花に止まった。
決して美しくもなく、決して甘い香りも放っていないその白い花は、
もし月に花が咲いているとしたらきっとこんな花なんだろう、
と思わせる神秘性を秘めていた。
蜜は決して甘くはないが、よほど栄養価が高いのだろう、
彼はみるみる力が充満していくのを感じ、再び大空へと舞い上がっていった。


彼が高い木の枝にとまろうとした時だった。
彼の激しくはためかせている4枚の羽根が羽ばたきを止まる事はなく、
高い木のてっぺんを飛び越えてしまった。
彼は必死に地上をめがけ、意識を集中している様子であったが、
その後もとどまる事を知らず、山を越え、雲を越え、
大気圏へと突入した時、その身体自体は燃え尽きてしまったのだが、
羽根は羽ばたき続け、灰となった身体を運んでいった。


羽根は、とうとう月に到着した。
とあるクレーターの影の上空に達した時、羽根は羽ばたきを止めた。
灰は力なくクレーターめがけてゆらゆらと舞い落ちて、
名もない花にふりかかり、白い花びらを黒く染めた。

このデジログへのコメント

まだコメントがありません。最初のコメントを書いてみませんか?

コメントを書く

同じ趣味の友達を探そう♪

  • 新規会員登録(無料)

プロフィール

アスラン

  • メールを送信する

アスランさんの最近のデジログ

<2009年11月>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30