車上荒し３

ついにこの日が来た。
晩の１１時に男１７人が集合した。
スーツ姿のやつ、なぜか全身迷彩服のやつといろいろ集まった。柔軟体操をしたり、軽くダッシュをしているものもいる。かなり異様だ。
警察がみたら間違いなくこっちが犯人だと思うだろう。

３週間連続月曜日に車上荒しをされている。毎週小銭入れに小銭をいれている。犯行時間帯は午前１時から２時の間。今日もマーク入りの５００円玉を３枚入れておいた。

犯行想定時刻には余裕があるので皆隠れながらもタバコをすったりしてリラックスしている。だが話をするやつはいない。
俺は少し緊張しながらまだ見ぬオッサン（犯人の呼び名）のことを思った。
「出会い系で人と会うときはこんな感じなのかな」「オッサン家族おるんかな」「突然暗闇から１７人も出てきたらびっくりするやろな」「俺の名前入りのゴルフクラブどうしたんやろ。売るに売れんし自分で使ってるんかな」などとぼんやりと想像していた。
１２時が過ぎ、向いのマンションや暗陰など方々に隠れる仲間にも緊張感が出てきている。俺はあまり怪我をさせないために選んだ竹刀を強く握った。
時間は経つが人は通らず現れるのは妙に太ったオレンジ色の猫だけ。昼間は暖かくなってきたが夜は冷える。じっとしているので余計に寒く感じる。
１時をまわった。いよいよだ。寒いはずなのに少し汗ばむ。「怪我をさせないようにつかまえるぞ」心に誓っていた。
２時になった。皆辛抱強く張りこんでくれている。「オイオイ早く来てくれよ」俺はちょっと焦りだした。「１６人も来てくれてるのに、ホント頼むよ」
３時になった。俺の後ろで隠れているやつが、「今頃オッサン、ヌクヌクの布団で寝とるんちゃうか」とつぶやいた。そのうちあちこちで話し声が聞こえ始めた。
「オッサン風邪ひいたんちゃうか」
「張り込みって結構大変やな。俺警察なんのやめよかな」
「オッサン一足先にゴールデンウィーク取っとんちゃうか」
「小銭やなーて、１万円札ぐらい入れとけ」

４時をまわった。
「今年は巨人やな」「まだわからんよ」
「こいつの新しい女めっちゃブッサくて笑けるで」

５時
ファミレスで１７人で暴飲暴食。
当然払わせていただきました。